□ 浮かれる熱。□



ここ最近、なぜかサガを見かけない。
普段ならサガも教皇宮内で働いているから、頻繁に廊下ですれ違ったりシオンさまと執務室に居たりと会うことは多かったのに、ここ数日は顔を見ていない。
それとなく侍女のアイカテリネに聞いてみると、意外な言葉を聞いた。

「え、サガが自室で謹慎?」
「はい。教皇さまからのお達しで、今は双児宮に居るはずですが……」
「どうしてサガが謹慎なんて受けてるの?すごく不思議なんだけど……」

シオンさまに聞きにいこうかなと考えて、向かいの部屋に童虎が護衛として待機していたのを思い出した。
童虎ならシオンさまと仲が良いし、何か知っているかもしれない。

「ちょっと童虎に聞いてくるわね」
「はい、かしこまりました」

アイカテリネに見送られると、そのまま向かいの部屋で待機している童虎のところへと向かった。
私室の向かいにある部屋の扉を叩くと、すぐに扉が開いて童虎が現れた。

か、どうしたんじゃ?」
「うん、ちょっと聞きたいことがあって……」

いきなりの質問に、童虎は目を瞬かせて不思議そうにこちらを見つめてくる。

「サガが謹慎を受けたそうだけど、童虎は知ってる?」
「ああ、それなら知っておるぞ。たしか不眠不休で働いておってな、あまりに顔色が悪いということで、シオンが休むように言ったんじゃが、聞かなかったそうじゃ」

そういえばサガを見かけなくなる前は、ずっと執務室の明かりが点けっぱなしだったのを思い出した。
人影があったから、誰かが使用しているのは気づいていたけれど……まさかサガがずっと篭っていたなんて気づきもしなかった。

「もしかして、そのまま事務仕事をしてたの?」
「そうじゃ。それでシオンが強制的に自室謹慎という形で休みを取らせたんじゃ」

つまり、シオンさまが休むを取るように言ったのに聞かないから、謹慎という形で強制的に休ませたと……。
すごく荒業なような気がするけれども、サガにとっては効果があったらしく双児宮に戻ることになったと……すごく簡単に想像できて、思わず溜息を零してしまった。

「サガも、なんでそんなに無理をしちゃったのかしら……」
「そればっかしは、本人に聞くしかないのう」
「それもそうね……ちょっとサガのところにお見舞いに行ってみましょう」
「そうじゃな、あやつの様子も気になるしのう。行くとするか」

童虎を連れて教皇宮を出るとき、ふと手ぶらで見舞い品を何ももってないことに気づいた。
サガは疲労で部屋にいるから、何か食べ物を持って行ってあげた方がいいのかもしれない。
何か簡単に食べれる食べ物をアイカテリネに頼んで果物を持ってきてもらった。
新鮮な果物の入ったバスケットを抱えると、今度こそ童虎と一緒に双児宮に向かった。


***************


双児宮につくと、サガの私室まで童虎が案内してくれた。
さすがに同じ黄金聖闘士同士、どこに部屋があるのかはだいたい解るらしく迷うことなく真っ直ぐに進んでいく。
たどり着いた私室の扉を童虎が叩くと、少ししてゆっくりと扉が開いて、中から驚いたような顔をしたサガが現れた。
ただサガは、いつもと違ってずいぶんとゆったりとした服を着ている。
そこでふと、きっと眠っていたところに来てしまったんだろうと気づいた。

「老子……それに。なぜ、双児宮に……」
「はははっ!何を驚いておる。わしらはシオンから話を聞いて、それでお見舞いに着ただけじゃ。それにしてもサガ、ずいぶんと顔色が良くなったのう」
「サガ、私は童虎から話を聞いてきたんだけど……体調は大丈夫?」

サガは童虎の話から察さしたらしく、少しだけ表情を和らげた。

「あ、ああ。ずいぶと楽になったが……心配をかけてすまない」

サガの顔を良く見てみると、寝不足と体調不良は本当だったらしくて、目元に薄っすらと隈ができている。
ふと手に持っているバスケットを思い出して、サガに差し出した。

「そうそう、なるべく栄養も取ったほうが良いと思って持ってきたの」
「果物か……ありがとう、。よければ、お茶でも飲んでいくか?」
「ありがとう、サガ。でもすぐに帰るから、そんな気使いしないでゆっくりと眠ってて」
「そうじゃった!そういえばすっかり忘れておったが、疲労回復に効く漢方薬を持っておったんじゃ!サガ、少し待っておれ!」

いきなり童虎は扉の前から背を向けると、そのまま歩き出したので慌てて声をかけた。
サガも驚いたように童虎を見ていた。

「え、ちょっと童虎?!」
「老子?」
「すまんのう、。安心せい、すぐに戻る!」

童虎は一度振り返ると、そのまま来た道を辿るように戻っていく。
薄暗い双児宮の道に、吸い込まれるように童虎の姿が消えてしまった。

「ご、ごめんね……童虎が戻ってくるまでの間、ちょっと居ててもいいかな?」
「ああ、ゆっくりしていってくれ」
「ありがとう。あ、もしあれだったらベッドで眠ってても良いわよ」

どっちにしろ体調の悪そうなサガにお茶を入れて貰うなんてできない。
せめてベッドに寝かしつけて童虎を待っていた方が、まだいいかもしれない。
ふとサガを見てみると、なぜか視線を泳がせながらうろたえていた。

「……いや、それは……」
「体調、そんなに良くないんでしょう?時間もあるし、果物でも剥きながら童虎を待ってることにするわ」

サガは何かを躊躇っているらしくて、動かない。
部屋で寝るだけなのに、なにをそんなに戸惑っているのか解らないけれど、さっさと部屋に連れて行こうと考えるた。
サガの横を通り抜けて部屋に入ると、振り返ってサガの方に振り返る。

「サガの寝室ってどこにあるの?」
「はぁ……仕方ない。こっちだ、ついてこい」

サガに案内されるまま部屋の奥へと進むと、なぜかサガは途中で立ち止まった。
おそらく視線の先にある、ちょうど隣接している部屋がサガの寝室かもしれないと気づいた。

「サガ、どうしたの?あの部屋なんでしょう?」
「そうだが……しかし、本当にいいのか?」
「良いも何も、童虎が帰ってきたらすぐに戻るし……」

サガの腕を引っ張って、そのままベッドの方へと連れて行く。
ベッドまでくると空いているもう片手で、ここだと言わんばかりにベッドを数回ほど叩いた。

「それにまだ体調が完全じゃないんでしょ?眠ってて」
「……は、思っていたよりも少し強引だな」
「サガが強情だからよ。さ、早くベッドに入って」

諦めたようにベッドに入ったサガを確認すると、熱を測るためにサガの額に手を当てた。
ほんの少し、熱いような気がする。

「ちょっと熱っぽい……?」

サガをよくみると、少しだけ顔が赤い気がする。
それにしてもサガの顔は、彫刻のように整い過ぎていて、目の保養になるけれど心臓に悪い。
今更になって、距離が近すぎるんじゃないかと焦りが出てきた。
離れようとしてサガから手を離そうとすると、いきなり手首を掴まれてしまった。