□ 理不尽ゆえの気苦労 □
手土産に貰った土産と少しばかりの荷物を持って、12宮の階段をゆっくりと上がっていく。
ついさっき通った白羊宮に人の気配は無かった。つまりアテナの巫女とムウは移動したということだ。
さすがにムウが居るからといって、護衛を頼まれた自分がいつまでも巫女の側に居ないというのは問題がある。
だが、ムウと巫女が恋仲だということを知ってしまった以上、もう少し時間を遅らせてから戻るべきかと悩んでしまう。
「さて、どうしたものか……」
「これは……老師ではありませんか」
背後からの声に気づいて振り返ると、シャカが12宮の階段を上がっている最中だった。
あまりにゆっくりと歩いていたために、いつのまにかシャカが追いついてしまったのだろうと気づいた。
「シャカか……おぬし、たしかシオンに頼まれてブルーグラードに赴いていたはずじゃが……」
「その任務は、無事に成し遂げました」
「そうか。シオンもカミュに任せればよかろうに、極凍の慣れぬ場所、ご苦労であったな」
巫女のことでシオンと確執ができたのは知っているが、まさかブルーグラードまで派遣するとは思ってもいなかった。
シャカはまったく気にしていないらしく、平然と答える。
「いえ、教皇から与えられた任務。黄金聖闘士としては至極当然のこと」
「はっはっはっ!そうじゃったのう、聖闘士なら当然じゃ」
たしかに聖闘士として教皇に従うのは当然のこと。
逆らうことはアテナに反逆していると思われても、それは仕方ないことだ。
だがシオンの場合は私情が大半を占めていた気がする……それはある意味、シャカにとっては災難にも似たようなものだ。
まあ、シャカが納得しているのなら、それでいいのだろうと納得してしまう。
「今日はアテナが戻ってくると聞いておる。シオンなら教皇の間にでもいるじゃろうて」
「さようでございますか。では、私は任務完了の報告のために教皇の間へ向かいます」
「そうか、わかった」
返事をしながら頷くと、シャカはそのまま階段を上っていった。
だが何かが気になるらしく、すぐに足を止めてこちらに振り返った。
「老子、巫女は……」
「巫女?巫女がどうしたんじゃ?」
アテナの巫女なら聖域からほぼ出ることもないため、教皇宮に行けば自然と出会ってしまう。
このままシオンに任務完了の報告のために教皇宮に行けば、巫女とも出会えるはずだ。
それはシャカも知っているはずだが、いったい何を気にしているのか不思議に思う。
「……私の後、巫女の護衛には誰が?」
「今のところ、わしじゃ。ただ、少しばかり用事があってのう、今日はムウに代わってもらっておる」
「ムウにですか……」
シャカは呟くと、考えるように黙り込んでしまった。
なぜムウの名前を聞いて考え込んだのか不思議に思ったが、すぐにムウとアテナの巫女が恋仲だと知っているのだなと確信した。
それでも巫女を想っているとしたら……想い人が同じでも、シオンとはずいぶんと違うようだなと感心してしまう。
「なんじゃ、様子が気になるのか?それならば、巫女の様子を見に行けばよかろうに」
「教皇に任務完了の報告後、巫女に挨拶にいきます」
「そうじゃな、そうするが良いじゃろう。とりあえず、わしは天秤宮に荷物を置きに行くとするか」
シャカは軽く頭を下げると、少し速い速度で12宮の階段を上がっていった。
普段と違う些細な行動の変化に、巫女に会うのが楽しみだと言わんばかりに見えてしまい、思わず笑みがこぼれる。
だがその反面、シオンとの間に問題は起こして欲しくないと願ってしまう。
まあ、シオンとシャカよりも先にシオンとムウの間に揉め事が起きるだろうが。
「師弟そろって、いったい何をしておるんじゃ……」
思わず呆れるように呟やくと、盛大に溜息をついた。
あまり小難しいことは苦手だが、いやおう無しに今後のことを考えてしまい、頭が痛い。
とりあえず、手に持っている荷物を置くために天秤宮へとゆっくりと向かっていった。
fin.