□ 春風 □
二年生になってからの初めてのクラス。一年の時のクラスメイトはクラス替えのおかげでほとんど居ない。でも、これは一から始めるチャンスかもしれないと思った。去年は夏休み以降からほとんど学校に行かなくなったから。いわゆる不登校というやつだ。クラスに入ってみると自分の席に知らない男の子が座っていた。どうも私の横の男子と話してるみたいだった。
「そこ、どいてくれない?邪魔だから」
「おぅ、わりーな」
男の子は謝ってすぐに席から退いてくれたけど、私の気はなかなか晴れなかった。なんだか男が座ってたってだけでも相当むかつく。私の席なのにまるで自分の席のように座ってて…男なんて大嫌い。
「えっと…さんだっけ…?」
さっきの男子に呼ばれたからそっちに向いたけど、むかついてるから相当睨んでるかもしれない。
「そうだけど、何?」
「さっきはほんとーにごめん!だからそんなに睨むなよ」
「俺からもごめんね、さん」
さっき喋ってた子も一緒になって謝ってきた。でもこの二人どこかで見覚えがあるような気が…そういえば去年凄く目立ってた三人組が居たっけ。確か、山本くんと沢田くんと極寺くんだったっけ…たぶん、その子達かな。
「もういいよ」
「どうかしたの?」
なんだか可愛らしい感じの声が聞こえてきたから振り返って見ると、笹川さんが居た。可愛いって有名なだけに本当に可愛かった。なんだか思わず笑顔になってしまう。
「別になんでもないよ?」
「そうなんだ。あ、わたしすぐ近くの席なんだ。よろしくね、さん」
にっこりと笑顔で言われたから私もなんだか嬉しくなって笑顔で返した。京子ちゃんとは絶対に友達にならないとってその時に思った。やっぱりクラスで一番可愛い子と友達なんて嬉しいし。
「さんって…なんか可愛いね!」
「へ?!…そ、そんなことないって!それに京子ちゃんの方が可愛いって!」
「照れなくていいよ!だってほんとにかわいいんだもん!」
二人で可愛い可愛いって言い合ってると二人でなんだかおかしくなってきて京子ちゃんと二人で笑いあった。だってこれじゃあただの褒めあいだもん。
「あの、よかったらちゃんって呼んでもいいかな?」
「うん、いいよ。私も京子ちゃんって呼んでもいい?」
「いいよ!わたしもそっちの方が嬉しいな。あ、そうだ!よかったらお昼一緒に食べよう!ハナちゃんも誘って三人で!」
「お昼?うん、いいよ」
その日はなんだか凄く充実した一日だった。お昼休みの間も今日、友達になったばかりの京子ちゃんとハナちゃんと三人で他愛のないことを話して楽しんだ。
*****
放課後になってカバンに教科を詰めていると一通の封筒が出てきた。そういえば体育の時に靴を履き替えようとしたら靴箱に入ってたんだっけ。それでそれをそのまま持ってきたんだけど…今時、靴箱に封筒ってなんて古典的なって呆れてそのままにしてた。中を開けてみると放課後に屋上で待ってるって書いてあった。
「ちゃん!一緒に帰らない?」
「あ…ごめん、ちょっと用事ができちゃって…本当にごめんね!今度また誘ってね!」
「そっか~…ううん、いいよ。また明日ね!ばいばい!」
本当なら一緒に帰りたかったんだけど、さっさと屋上に行って断らないと後でめんどくさいことになりそうだし。ため息をつくとカバンを持って屋上に急いだ。屋上に行ってみると誰も居なかった。なんとなく柵がある場所まで行って景色をぼうっと見ていると、黒い学ランを着た人が校庭を歩いているのが見えた。あれは確か…風紀委員長?あ、なんか目が合ったし。
「!ちゃーんと着てくれたんだ。うれしーよ!」
間抜けそうで耳障りな声が聞こえたから振り返って見ると緑化委員長が居た。そういえば、緑化委員に入ってたっけ…しかもこの先輩そうとう気持ち悪かった記憶がある。
「緑化委員長…いったいなんですか?手紙なんかで呼び出しって…」
「つれないなー。このごろぉ、緑化委員にも顔出さないしー…そんで手紙出したわけ。それに気づいてるでしょー?おれがのこと…」
気づいてるも何も気持ち悪いから逃げてたのに…ああ、もう本当に男なんて大っ嫌い!なんかぶつぶつと言ってる隙にここはさっさと断って逃げよう!
「お断りします!それと緑化委員は辞めます!後日、担任にちゃんと辞表出しますから!ということでさようなら!」
屋上から出るために入り口の近くに立っている先輩の隣を通り過ぎようとした時、腕をがっしりと掴まれて思いっきり引っ張られた。おかげでしりもちをつく感じで転んだ。
「痛っ…たた…。何するんですかー!」
「おれのはそんなコじゃないよー。そっか、照れてるんでしょー?だいじょーぶ、すぐ素直にしたげるから」
「はぁ?何言ってるんですか?頭大丈夫ですか?というかさっさと退いてください!」
馬乗りに乗っかっていて身動きがほとんど取れない。必死に押し返そうとしていると服を前から引き裂かれた。こんなこと前にもあった。フラッシュバックのように記憶が蘇ってきて怖い。怖い…気持ち悪い…怖い怖い…気持ち悪い…どうしようっ…。
「いっ…嫌ぁっー!」
「ねえ、僕の学校で何してるの?」
目の前の先輩と別の声が聞こえた。それと同時に何か柔らかいものを叩くような鈍い音が響いて、目の前の先輩が目を大きく見開いたと思ったら今度はゆっくりと倒れてきた。必死になって先輩から抜け出して、さっき助けてくれた人物が誰か気になって後ろを振り返ると、風紀委員長が居た。