□ 日常への迎え □



ムウを連れて、急いでシャカと童虎が待っている部屋に行くと、童虎とシャカが椅子に座ってお茶をしていた。
2人ともこちらに気づくと、すぐにこちらに振り返ってきたので、そのまま童虎とシャカに近づいていった。

「話はもう済んだのかね?」
「うん、ありがとうシャカ」

微笑みながらシャカに礼を言うと、いつの間にか横に並んでいたムウに肩を抱き寄せられた。
童虎もシャカもムウとのことを知っているので、抵抗することもなくそのままムウに身を預けるようにもたれる。

「どうやら気を使わせたようですね。今回のことに関しては礼を言いますよ、シャカ」
「いや、気にする必要はない。私はただ、が落ち込んでいるのを見ていられなかっただけだ」
「そうですか」
「シャカ……」

シャカは、まるで何事も無いように平然と答えた。
あまりにもシャカらしくて、ほっとするような気持ちと嬉しいという気持ちが溢れてきて、思わずはにかむような笑みが浮かんでしまう。
ふとムウの方を見ると、ムウはいつものように穏やかな笑みなのに、どこか余裕を含ませたような笑みをシャカに向けていた。

「わしの気のせいかもしれぬが……ムウの方もずいぶんと落ち着いたように見えるのう」
「そうですか?それなら、おそらくのおかげですね」

名前を出されて思わずムウの方を見ると、ムウは幸せそうな微笑を浮かべていた。
自分で何をしたのか解らなくて、思わず首を傾けてしまう。

「私のって?」
「はい。がすべてを投げ出してくれると言ってくれましたから……言っておきますが、私は本気ですよ?」

投げ出すなんて言ったっけと考えていると、少し前に攫っても良いって返事をしたのを思い出した。
今更になって恥ずかしいような気持ちが沸いてきて、頬が熱くなってくる。
耐え切れずについ顔を逸らすと、くすくすと楽しそうにムウが笑った。

「は、ははは……何か物凄く嫌な予感がするんじゃが……わしの気のせいじゃな」
「投げ出す?ふむ……よく解らぬが、何か約束事でもしたのかね?」
「童虎、シャカ……深く考えないで」

シャカと童虎は不思議そうにこちらを見るだけで、それ以上は聞いてこなかった。
妙に静かになったので、場の空気に耐え切れずに空いている椅子に座るとお茶が出てきた。
美味しくお茶を頂いていると、少しして扉を叩く音がして、振り返るとサガが呼んでいる声が聞こえた。
シャカの許可で部屋に入ってきたサガと自然と視線が合うと、なぜかサガに微笑まれたので微笑み返した。

「サガ?どうしたの?」
「ああ、そろそろ夕刻になるがが教皇宮にいないようだったのでな……アテナとの約束を忘れているのではと思って来たのだが……」
「え、もうそんな時間だったっけ……教えてくれてありがとう、サガ。すぐに戻るわ」

時間を確認するように窓から入ってくる日差しを見ると、思っていたよりもずいぶんと傾いていた。
急いで部屋に戻ろうと席を立つと、合わせるようにムウも立ち上がった。

「時間がありますから、私も部屋まで送りますよ」
「なら私も行こう」

シャカもムウの後を追うように立ち上がると、童虎もつられるように席を立った。

「なんじゃ、ずいぶんと人数が増えたのう」
「あはは……まあ、賑やかで良いんじゃない?ちょっと目立つだけで……」

本当にちょっとなのかは疑問だったけれど、教皇宮まではすぐそこだし、あまり気にしないことにした。
童虎の顔が少し引きつっているような気がするけど、気づいていないことにした。
それにシャカやムウが引き下がるようには見えないし、むしろ対抗意識でも燃やしたら後が大変な気がする。

「そうかのう……黄金聖闘士4人は、ちょっとには見えんが……」
「ま、まだ……3分の1くらいの人数だから……」

かなり苦しい言い分な気がするけど、思わず苦笑いで誤魔化してしまう。
ふと誰かに肩を触られたので振り向くと、ムウだったらしくて、肩に手を置いていた。

「2人とも何をしているんですか?急がないとアテナが待っていますよ」
「あ、そうそう!ごめんね、急いで行きましょう」

急いで部屋から出ると、そのまま5人で部屋を出た。
処女宮の廊下を出て歩いていると、自然と右側がムウで左側にはシャカがいて、いつの間にか2人に挟まれるような形になっていた。
さすがに5人も横並びに歩けないので、サガと童虎は後ろの方に回ってしまっていた。

「それにしても珍しいこともあるものだな……ムウどころか、シャカも率先して歩くなど」
「う~ん……いつもはシオンさまが率先してくるから、珍しく見えるのかも」
「まあ、シオンのやつは、すぐにの隣に行くからのう……」

どこに行くにしても、シオンさまが居るときは必ずと言っていいほど、シオンさまは隣に立っている。
教皇としての立場上とわかっているから、今まで気にしたことは無かったけれど、たしかに他の人が居るのは珍しいかもしれない。

「私とて、教皇やアテナを差し置いて巫女の横を歩くなど失礼なことはしないが……」
「ああ、そう言ったことではなく……シャカとムウが率先して行くことが珍しく見えてな」

サガの言葉に反応したらしく、シャカは少しだけサガの方を向いた。

「率先?自然となっただけだが……」
「シャカの言うとおり、自然とですよ……」

ムウも、ほんの少しサガに視線を流すと、穏やかに見えるけれど、どこか微かに含みが入っているような笑みを浮かべた。
シャカは無意識に近いけれど、ムウは絶対に意識的に動いたんだと気づいた。

「サガ、君の気のせいだろう」
「そうか。私の気のせいか……ムウとシャカが一目散にの横に向かっていったように見えたが……」

それはきっと気のせいじゃないと喉元まで言葉が出てきたけど、飲み込んだ。
ふと童虎の方を見てみると、なんともいえない顔をしていたけど、何も言わなかった。

「え~っと、サガ。もう沙織ちゃんやシオンさま来ているの?」
「ああ、2人とも仕事を早くに切り上げたそうだ」
「え、じゃあ急がないと!あまり時間がかかったらシオンさまが降りてくるわ」

今まで何度もあったから、今回もシオンさまが迎えにくるかもしれない。
まだ日は沈んでいないけど、シオンさがま迎えに来る前に階段を上りきろうと考えて、急いで階段を上がっていった。