□ 思わぬ誤解 □
何店も店が立ち並んでいる通りを雑貨屋さん目指して歩く。
色んなお店があって、色んな人たちがお店の商品を見て行く、その賑やかな商店は見ているだけでも楽しかった。
「がエリダヌスの聖闘士というのは、町の人は知っているんですか?」
「え、言ったことないから、たぶん知らないかも。聖闘士っていうのは、仮面で思い切りばれてたけど……誰も、どの星座なんて聞かなかったもの」
「そうですか……なら、アテナの巫女になったことは黙っていた方がいいですね。下手に街中で騒がれると大変なことになるかもしれないので」
「うん。じゃあ、黙っておくわね」
ムウの言っている通り、私が巫女だとバレたら顔見知りの人たちがお祭り騒ぎでも起こすかもしれない。
そんなことを考えていると、ふいに果物を売っているお店から威勢のいい掛け声が耳に入ってきた。
その声がいつもお世話になっていたお店のおばさんの声だったので、久しぶりに挨拶をしようと思い近づいて声をかけた。
「こんにちは!」
「はいはい、こんにち…え……その声。あ、あんたもしかしてちゃんかい?!」
「うん、そう。よ、おばさん」
おばさんは目をまん丸にして驚いて、手に持っていた見本の形のいいリンゴを地面に落とした。
そのリンゴを拾って渡そうとすると、おばさんの目はかなり潤んでいた。
これはもしかして、凄い心配かけたかもしれないと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「二年も顔を見せずに、どうしたんかと思って心配したんだよ。ああ、本当にちゃんだねぇ……おばさん、また会えて嬉しいよ」
「おばさん、ごめんね。ちょっと忙しくて顔を出せなかったの」
「そうかいそうかい。元気だったら良いんだよ。ん?……あっ、なるほど……!そういうことかい」
「え、あの……おばさん?」
いきなり何か納得したらしいおばさんは、何度も笑顔で頷いている。
しかも袋にリンゴとかメロンとかを詰め始めた。
それになんだか凄く嫌な予感がしていたけど、見ていると今度はその袋をなぜか渡される。
「これはお祝いだよ。遠慮なく持っていておくれ」
「あ、ありがとう……え、あのお祝いって……?」
「で、いつ結婚したんだい?」
「………結婚?誰が?」
「そりゃあ、ちゃんだろ?こんな良い男捕まえて何言ってんだいっ」
おばさんの発言に頭が文字通り真っ白になって、次の瞬間に"私、いつ結婚した?!"という考えで頭がいっぱいになった。
なんとか原因を突き止めようとして、嬉しそうなおばさんの目線を追うと、目線の先には、ムウが居た。
そういえば、ムウと手を繋いでいたことを思い出した。これは完全に誤解されている。
「ちょっ!待っておばさん!私、結婚なんてしてない!」
「ああ、じゃあ結婚直前ということかい?ちゃんとお師匠さんには、ご挨拶しとくんだよ?」
「だから違いますって!ムウも何か言ってよ!」
「そうですね、近いうちにご挨拶に伺いますよ」
微笑みながらおばさんに言い放ったムウに、驚きすぎて開いた口がふさがらない。
思いっきりムウを睨み付けて怒鳴りつけようとした時、ムウが「さっき、巫女の話はしないと話し合いましたよね?」と小声で耳打ちしてきた。
ここで事情を話せば、確実にばれる。そう気づいて、慌てて咳払いして誤魔化した。
「こほん。おばさん、私は結婚なんてしませんから」
「何言ってるんだい。仮面の下を見られたんだろう?しかも二人仲良く手なんか繋いじゃって」
「は、照れているんですよ。こういうことには、とても恥ずかしがりやのようですから」
「ムウ!何言ってるの!私は恥ずかしがってなんていないわよっ」
くすくすと笑っているムウと、楽しそうに笑うおばちゃん。もうこの二人に何を言っても無駄だということがわかった。
そもそも仮面が無いから、素顔を見られて掟に従っているようにしか見えないのかもしれない。
昔、仮面の掟のことうっかり言ってしまったことが悔いる。
このままいくと、どんどんと思っても見ない方向に持っていかれそうで、逃げることにした。
「おばさん、今日は時間が無いから、私たちもう行くね。また今度来るから!」
「はいはい、またおいで」
顔がにやけているおばさんを後にして、先へと進んだ。
まだ繋がれている手が気になって、なんとか振りほどこうと繋がっている手を振ってみた。
けれど何度振ってみても、しっかり握られているため全く振りほどけなかった。
「ねえ、ムウ……そろそろ、手を離さない?大丈夫、絶対に迷子になったり故意に逃げたりしないから!」
「さっきも言いましたが、無理です。この状態の方が護りやすいんですよ」
「私、これでも聖闘士よ?自分の身くらい自分で護れるわよ。ね、お願いだから」
見つめていると、ムウの翡翠色の瞳と目線があった。
なぜか固まったように動かないムウは、相変わらず何を考えているか全く分からない。
不思議に思って見ていると、ムウの方が視線を先にそらした。
「そういうわけには、いきません」
「…………ムウのケチ」
「ケチで結構。行きますよ。雑貨屋は、この先でしたよね?」
途中でムウが果物が沢山入った袋に気づいて「持ちますよ」と言って取り上げる。
手を繋いだ状態のまま、ムウが先を急ぐように前へと進んで行き、それに手を引っ張られるように雑貨屋へと向かった。