□ 終わりと結果 □



聖域に向かって歩こうとしたときに、まだムウと手を繋いでることを思い出した。もう聖域に着いたので手を繋ぐ必要なんて全く無い。
だからそろそろ手を離して、ついでに荷物も取り返そうと思いムウの方に振り向いた。

「着いたから手を離してくれる?ついでに荷物も頂戴。自分で持つから」
「いえ、荷物は部屋まで私が持ちます。ここまで持ってきたんですから、部屋まで持っていても大して変わりません」

そう言いうとムウは荷物を持って進んでいく。
本当ならこのままここで別れる予定だったのに、そのまま白羊宮を通り抜けていきそうな勢いでムウは歩いている。

「ちょっとムウ。どこまで着いて来る気なの?白羊宮に帰らないの?」
「一応、護衛としてについて行くということを小宇宙通信で送ったので最後まで送りますよ」

ムウのことだから、何を言っても絶対に最後まで送ってくれるだろうということが予想がついて諦めた。
その時に、ふいにここが白羊宮だったことを思い出して、どうせお礼代わりにあげるなら今のうちの方が手間にならないと思いついた。

「ちょっと待って!袋、少しだけ貸してくれる?」
「別にいいですが、何するのですか?」

袋に入っている野菜とか果物とかを適当に見繕って取り出していく。
ちょうど半分くらいの量を取り出すと、それをなんとか手に持ってムウに渡した。
ムウは躊躇ったように受け取ると、不思議そうに野菜と果物と私の顔を交互に見てくる。

「それ、荷物を持ってくれたお礼にあげるわ。ああ、ついでにこのまま白羊宮に置いてきたら?すぐそこだしね。大丈夫、ちゃんと帰ってくるの待ってるから」
「わかりました、ありがたく頂いておきますね。少し待っていてください」

素直に頷くとムウは白羊宮の奥へと戻って行った。妙に素直なムウになぜか寒気を覚えて、思わず自分の体を抱きしめる。
ムウは5分もしないうちに戻ってきて、そのまま白羊宮を抜けて一緒に教皇宮へと目指した。


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ムウと距離を取りつつ世間話程度の話をしながら進んでいくと、やっと教皇宮が見えてきた。
なんだか騒ぎ声が聞こえてくる。"ええい!離さぬか!"とか"ムウが付き添って居るので落ち着いてください!それになにより、仕事が残っております!"とかが扉越しに聞こえてくる。
不思議に思い、教皇の間へと続く扉を開けると、なぜかサガがシオンさまの両肩を背後から押さえながら、必死に止めていた。

「あの……サガと何してるんですか、シオンさま」
「おお、!やっと帰ってきおったか!」
「ああ!か!教皇がどうしてもを迎えに行くと言って聞かないのでな、止めていたところだ」

サガが手を離すと、すぐにシオンさまが駆け寄ってきた。
心配そうな顔で覗き込んでくるシオンさまと、その後ろの方で少し疲れたように腕を組んでいるサガを見ると、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。

、全く心配したのだぞ。どこも怪我はしておらぬか?」
「私は大丈夫です。シオンさま、かってに出かけてごめんなさい。それにサガにも、迷惑をかけてしまったみたいで」
「いや、が無事ならそれでよい」
「ああ、なれているから私のことは気に無くてもいい。それに、にもたまには息抜きも必要だろうからな」

シオンさまは安心したように微笑むと、頭をそっと撫でてくれた。サガも後ろの方で、安心したように微笑んでいる。
二人の気持ちが嬉しくて、思わず顔が綻ぶ。ふいに奥の部屋から気配がすると思ったら、沙織ちゃんが姿を現した。

「シオン、サガ。騒がしいのですが、どうかしたのですか?あら、お姉さま。おかえりなさい。ムウも、ご苦労様でした」
「ただいま。沙織ちゃん、シオンさま……本当に、心配かけてごめんなさい」
「気になさらないでください。わたしの方こそ、ごめんなさい。お姉さまのことをもっと考えてあげていたら、こんな行動はなさらなかったのにと反省しています」

少し悲しそうに頭を下げる沙織ちゃんを見て、さすがに逃げ出した私も悪いかもしれないと少し反省した。
こほん、と咳払いの音の後に「あー……」と呼ばれた。不思議に思って振り返ると、シオンさまが気まずそうに視線を泳がせながら立っていた。

「さすがに余も反省しておる。すまなかったな、。それでな、アテナと相談して週に一日は、休暇を取らせることにしたのだが……」
「ええ、たまには休息も必要ですもの」
「シオンさま、それに沙織ちゃんも……お休み、頂けるんですね。ありがとうございます」

聖闘士の修行をしていた時は休みなんて存在しなかったから、そのことは気にしたことはなかったけれど、それよりも星読みから一日だけでも開放されることが純粋に嬉しかった。
一人でほっと息をついていると、ムウとサガが割り込むように言葉を発した。

「まってください。それだと、まるで休みが今まで無かったように聞こえるのですが?」
「教皇、それはどういうことですか?このサガにも、そう聞こえますが」
「うむ、そのまま聞いたとおりだ。少し気合を入れすぎてな……休日というものを忘れておったのだ」
「つまり、ほぼ監禁状態で教育していたわけですね。通りで、が逃走するわけですよ……」
「ああ、本当にそうだな……」

そういえば、ほぼ毎日缶詰状態で、シオンさまと勉強していたということに言われてから気づいた。
たしかに教皇業務とかで課題だけ置いて行くときもあったけど、毎日のように顔を合わせていた。
どことなく冷めた目線でシオンさまを見ているムウと、なぜか額を抑えているサガが二人揃って溜息を吐く。
なんとも空気を変えるように、沙織ちゃんの何か思いついたような楽しげな声が響いた。

「今度はわたしと一緒にお買い物に行きましょうね、お姉さま」
「うん、行こうね。沙織ちゃん」

にっこりと笑顔で返すと、沙織ちゃんも笑顔で返してくれる。
こうやってみると、佐織ちゃんも普通の女の子なんだって思ってしまう。

「なら、余とも行くべきだ。ムウだけと出かけるとは……ずるいぞ」
「シ、シオンさま?」
「私のは、巫女の護衛としてですよ」
「それでも余は納得いかぬ」

ムウの言葉に耳を貸さないシオンさまを見ていて、もしかしてこれは拗ねているんじゃあ……と、思い至った。
なんだか凄く珍しいものを見た気分と、それに加えて外見が若いせいか、ほんの少しだけシオンさまを可愛いと思ってしまった。
だから思わず、「わかりました、シオンさま。今度、出かけましょう」と顔を緩めながら言ってしまった。
それにシオンさまは凄く嬉しそうに顔を緩めて「ああ、約束したぞ」と返事を返してくれた。