□ 小さな攻防 □



この間のリンゴを使ったアップルパイを届けようと、教皇宮へと階段を上っていく。
処女宮を通過しようとした時に、奥の方から彼女の声が聞こえてきた。
どうも目当ての彼女はシャカと話しているようだった。声をかけようと思ったとき、二人はさらに奥の方へと進んだ。

「いったい、二人はどこへ……?」

どうしても二人の事が気になってしまい、少ししてから後を追うように同じ道を進むと、1つの扉の前に着いた。
そこは沙羅双樹の苑へと続く扉で、二人がここへ入って行ったことは予想が付く。中に入ろうか迷っていると、扉が開き中からシャカが出てきた。

「ムウよ、そこで何をしているのかね?」
「彼女に届け物をと思いまして」
「ふむ……それで、後を付いてきた……と、いうところか」

シャカは最初からムウが処女宮に着ており、彼女の後を追いここまで来たことに気づいていたらしい。
それを知っていてシャカは、ここまで彼女を連れてきた。だとしたら、そのシャカの行動に疑問が湧くが、口に出さなかった。

「だとしたら、どうだと言うのですか?それにシャカ、私が彼女に用があることくらい気づいていたでしょう」
「たしかに気づいてはいたが……」
「だったら、どうして私が来るのを待っていてくれなかったのですか?」

シャカは思うところがあるのか、すぐには返事を返さなかった。
それでも大人しく返事を待っていると、少ししてから口を開いた。

「……君は少し、彼女に関与しすぎではないのかね?」

その一言に、思わず笑いが出そうになったが堪えると、代わりに失笑に近い笑みが漏れる。
再開した時から嫌いだと言われ、微笑みかけらることが全く無いこの状況で、彼女との接点を作るのにどれだけ苦労したのかと話したい気分になった。
けれどそれよりも、シャカの言動が普段と少し違うことに気づいた。しかもムウにとっては、あまり面白くない方向の変化だ。

「関与しすぎですか……あまり人に関心を持たないシャカにしては、おかしなことを言いますね」
「ムウ、君は少し勘違いをしていないかね?興味なら、少なからず持っている……あの巫女は、アテナが気に入るだけのことはあると確認できた」

その言葉で、沙羅双樹の苑で彼女とシャカの間に何かがあったことに気づく。
とたんに苛立ちにも似たなんとも言えない不快な気持ちがムウの心の中に芽生えるが、それを表面に出すことなく話を続ける。

「確認ということは……沙羅双樹の苑で、何かしたのですか?」
「特に何も……ひいて言うなら、彼女と意思の疎通をしたくらいだが」
「意思の疎通ですか……」

あのシャカがそこまでするということは、本当に興味を持っているということだ。
このまま厄介なライバルが増える前に、彼女は譲らないと言ってしまおうかと考えてるうちに、シャカの後ろにあった扉が少し開いた。
もしかしてと思い扉の方を覗くと、目当ての彼女がそっと覗きこむように様子を伺っている。
目が合った瞬間に、愛おしさが溢れて微笑が漏れる。彼女はすぐに顔を逸らしてしまうが、それでも嬉しさが勝った。
会話の糸口として持参したアップルパイを持ち直すと、彼女に声をかけた。







fin.