□ 変わりゆくもの □
沙羅双樹の苑で心地よい時間を過ごしているという時に、扉の向こうに見知った人の気配を感じた。
さきほどから処女宮でムウの気配を感じていたので、恐らくムウが来たのだろうと扉へと向う。
扉を開けると、そこには思ったとおりムウが扉の前に立っていた。
「ムウよ、そこで何をしているのかね?」
「彼女に届け物をと思いまして」
「ふむ……それで、後を付いてきた……と、いうところか」
薄々感づいてはいたが、確信へと変わった。やはりムウは、彼女に並々ならぬ好意を抱いていると。
初めて教皇宮で挨拶を済ませた時に、彼女はムウの事を最初から知っていたのを思い出す。
あの時は気にも留めなかったが、今となると彼女とムウの関係性が気になる。
「だとしたら、どうだと言うのですか?それにシャカ、私が彼女に用があることくらい気づいていたでしょう」
「たしかに気づいてはいたが……」
「だったら、どうして私が来るのを待っていてくれなかったのですか?」
本当はムウの行動で、ムウの彼女に対する思いを見極めようとしていたことを話そうとしたが、なぜかためらい、違う言葉が口をついで出てきた。
「……君は少し、彼女に関与しすぎではないのかね?」
シャカは、なぜ自分がこのような言葉を発したのかが、不思議だった。
ムウはその言葉を聴いたとたん、微かに笑みを浮かべたが、いつもとどこか違うムウに違和感を感じた。
「関与しすぎですか……あまり人に関心を持たないシャカにしては、おかしなことを言いますね」
「ムウ、君は少し勘違いをしていないかね?興味なら、少なからず持っている……あの巫女は、アテナが気に入るだけのことはあると確認できた」
つい先ほどの会話を思い出す。アテナの巫女として生きると言った彼女からは、強い意志を感じ取った。
そしてなぜか、彼女の側は心地が良いと思ってしまう自分に、内心で酷く驚く。
「確認ということは……沙羅双樹の苑で、何かしたのですか?」
「特に何も……ひいて言うなら、彼女と意思の疎通をしたくらいだが」
「意思の疎通ですか……」
背後の扉から彼女の気配がする。
きっと周りに誰も居ないことに気づいて探しに来たのだろうと、気づいたが振り返ることはしなかった。
どうせならこのまま、扉を開けずにいて欲しいと思うが、それは叶わずに扉が少し開いた。
やはり気になったのかムウが中を確認しようと覗くと、扉の向こうに居る彼女もムウの存在に気づいた。
fin.