□ 少しの疑問 □
用意が終わると、扉の前で待機していたムウとシャカを連れて、教皇の間へと向かった。
たどり着いた教皇の間は、黄金聖闘士の食事の準備のため、女官と女中たちが忙しなく働いていた。
沙織ちゃんとシオンさまは、まだ来ていないらしくて見かけなかったけど、珍しくサガとアフロディーテとデスマスクが立ち話をしているのを見つけた。
笑いながら手振り身振りで話すデスマスクに、サガとアフロディーテが話しを疑うように苦笑を浮かべている。
「あそこ、なんだかすごく盛り上がってるみたい……」
「、デスマスクですよ?いったいどんな話をしていることやら……」
「うむ。あまり近寄らない方が良い」
「そうかしら……」
さすがに気になって遠くから見ていると、サガと目があった。
アフロディーテとデスマスクも気がついたらしくて、デスマスクの方は"うげっ"って顔をしていた。
すぐにデスマスクは苦笑いを浮かべて、そのまま奥の方へと行ってしまった。
さすがにおかしいと思っていると、残されたサガとアフロディーテがこちらに向かってきたけど、ムウが先に2人の前に出た。
「サガ、アフロディーテ。どうかしたのですか?」
「いや……に少し聞きたいことがあるのだが……」
「ああ、私も少し気になっていてね……」
「私に?どうかしたの?」
二人ともすごく聞きづらそうに視線を泳がしていて、いったいデスマスクは何を話していたのか、かなり気になる。
2人が話し出すのを待っていると、先にサガの方が口を開いた。
「が、ムウとシャカで遊んでいたと聞いたのだが……」
「私もさすがに、あの二人を相手に信じがたいが……」
「え、遊んでたって……なんのこと?」
なんだか身に覚えのない話をされてて、さすがに困った。
というか、いったいどこからそんな話が出てきたのか考えていると、ムウの方が先に気づいたらしく、こっちに振り向いてきた。
「おそらくですが……髪のことでは?」
「髪?ああ、そういえばさっきムウとシャカの髪で結い方の練習をしたから、そのことかしら……まあ、たしかに髪をいじってたけど……」
たしかに遊んでいたように見えたかもしれない。
それにちょっと楽しかったし、遊んでたと言われれば遊んでいたとしか言えないような気が…。
アフロディーテは意外そうに目を見開くと、疑問をもったように首を少し傾けた。
「結い方の?それにしてもムウとシャカというのは珍しい」
「そ、そう?……そういう日もあるわよ。ちなみにデスマスクはなんて言ってたの?」
「デスマスクが言っていたこと?ああ、たしか……がシャカとムウを大人しくさせて遊んでいた……しかもかなり良い雰囲気だったとしか……それ以上は教えてくれなかったよ」
大人しくさせて良い雰囲気になっていたって……まるで私が迫っていたみたいな言い方に聞こえるような気がする。
しかもついさっき、デスマスクは逃げるようにどこかにいったのを見ると、絶対に確信犯だと気づいた。
「それにしても髪で遊んでいたなんて……可愛いじゃないか。私でよければ、いつでも相手するよ」
「ありがとう、アフロディーテ」
「、このサガの髪でよければ……」
サガの珍しい申し出に、思わずサガの方を凝視してしまう。
ふとアフロディーテを見ると、アフロディーテも驚いているらしくて、サガの方をじっと見てしまっていた。
「サガ、君の髪は練習に向いていない」
「長さがあれば、問題はないはずだ」
「甘いですよ、サガ。あなたの髪は癖が入りすぎています」
確かにサガの髪は硬そうに見える。
でももしかして柔らかいのかもしれないし、ちょっとだけ触ってみたい気持ちになった。
「アフロディーテの髪も癖が入っているように見えるが?」
「フッ……私は美の戦士。どのような髪型にしても似合うよ。だがサガ、君の髪だと髪型も限られているだろう?」
アフロディーテは、どこからともなく薔薇を取り出して微笑む。
たしかにアフロディーテなら、どんな髪型でも大丈夫そうに見える。
けどなぜか、髪型や髪の質のことを話し合っている黄金聖闘士を見ていると、なんともいえない気持ちになってくる。
「みんな、髪を結んでもらうのが好きなのかしら?」
思わず言ってしまった一言に、サガとアフロディーテが黙ってしまった。
何かおかしなことを言ったのかもと周りを見ると、ムウは楽しそうに笑みを浮かべているし、シャカも不思議そうに首を傾けるだけだった。
「そういうわけでは……」
「、君は本当に……」
「え、でも髪のことばっかり話してるし……」
珍しくアフロディーテが溜息をついて、サガは困ったような笑みを浮かべている。
いったいどうして髪のことを話しているのか気にしにしていると、扉が開いてシオンさまが入ってきた。
シオンさまは、すぐにこちらに気づいて近づいてきた。
「黄金聖闘士が4人も集まって、何をしておる」
「あ、シオンさま。そうそう、サガ、アフロディーテ。シオンさまって、女性の髪を結ぶのがすごく上手なの」
つい世間話をするようにサガとアフロディーテに話してしまうと、2人同時に動きが止まった。
「教皇が、女性の髪を結ぶのが得意……」
「これはまた……」
アフロディーテとサガはシオンさまの方を固まったように見つめている。
なんとなく、2人が言いたいことは解るけれど、ここで言ってしまってはいけない気がして、思わず2人から視線をそらしてしまう。
「サガ、アフロディーテ。なにやら失礼なことを考えておらぬか?」
「いえ、そんなことはありません」
「私も……ただ、そういった話を聞くと、やはり「アフロディーテ。それ以上、の前では何も言うな。がまた勘違いをする」
アフロディーテは、思わず言葉をのむと、何か理解したように苦笑を浮かべた。
「、君はいったい何を教皇に……?」
「え、えっと……女性好き?」
「君はまた、そんなことを……」
シオンさまは日ごろから、なんだかすごく密着してくるから、そういう印象が強いから仕方ない。
玉座の後ろのカーテンが揺れたと思ったら、カーテンの向こうから沙織ちゃんが出てきた。
「賑やかですね。シオン、どうかしたのですか?」
「アテナ……が、私のことを女好きと勘違いをしているようで……」
「あら、冗談かと思っていたのですが……お姉さま、本当にそう思われているのですか?」
「え、違うの?」
「そうですね……私からは何も言えませんが、シオンのことをよく見ていれば、お姉さまもいづれ解りますよ」
沙織ちゃんは楽しそうに微笑むと、それ以上は何も言わなかった。
突然、豪快に扉が開いたから振り向くと、開いた扉の向こうには童虎がいて、驚いたようにこちらを見ていた。
「なんじゃ、もう来ておるのか」
「童虎、おぬしも誤解を解くのを手伝え」
シオンさまは、いきなり童虎に向かって話しかけると、童虎は不思議そうに何度か瞬きをして、シオンさまのところまで進んで行った。
「誤解?なんのことじゃ」
「が私のことを女好きだと思っておる」
童虎は少し考えるように上を向くと、納得したように手をポンッと叩いた。
やっぱり童虎にも何か思い当たることがあるんじゃないかと思わず疑ってしまう。
「そういうことか……、シオンはああ見えても修復師じゃ……」
「う、うん。それは知ってるけど……あ、」
そういえば、ムウのイメージが強くて忘れがちだったけど、シオンさまも修復師だった。
だとしたら、手先はすごく器用なはず。
「そうじゃ。手先が器用だからのう、どこかで見て覚えたのじゃろう……」
ムウも見ただけで、すぐに覚えれたし、もしかしてシオンさまも同じようにして覚えたのかもしれない。
納得しかけた時にムウに肩を掴まれて、思わず振り返るように見上げると、ムウは真っ直ぐにシオンさまを見ていた。
「それをどこで覚えたのかが問題なのでは?」
そういえばムウは私に教わっていたし、誰かがシオンさまに教えたことになる。
ということは、やっぱり女の人に教わったとしか考えれない。
「ふふっ……お姉さまは、シオンのことが気になるのですか?」
「え、あ……そういうわけじゃないんだけど……」
沙織ちゃんは楽しそうな笑みを浮かべているけど、他のみんなは、なぜか無言になってこちらを見てくる。
とくにムウが、なんだかすごく何かを言いたそうにこちらを凝視していて、近いから視線が突き刺さるように痛い。
たぶん、はっきりと否定して欲しいんだろうなって、すごく解るけど……今後のことを考えると、本人の前ではっきりと言えない。
困っていると、教皇の間へ入る扉が開いて、誰かが中へと入ってきた。
「あ!アイオロスとアイオリア!」
「。もう来ていたのか、まだ時間には早いはずだが……」
アイオロスは、少し驚いたようにこちらに向かって進んでくる。
すでにアテナと教皇と巫女がそろっていて、黄金聖闘士が4人もいれば、たしかに勘違いするかもしれない。
少し勘違いをしてしまっているアイオロスに、安心させるように微笑みかけると、なぜか後ろにいたアイオリアが横を向いた。
「早いもなにも、私の部屋は教皇宮にあるから」
「そうか。そういえばはここに住んでいたな」
アイオロスとアイオリアをきっかけに、残りの黄金聖闘士も教皇の間へと入ってきた。
そのたびに挨拶をしていくと、まるで受付係みたいになってしまったけれど、次から次へと黄金聖闘士が入ってくるのだから、仕方がない。
最後にアルデバランに挨拶をして、ふと後ろを振り向くと、沙織ちゃんは玉座に座っていて、シオンさまも沙織ちゃんの横に待機していた。
さすがに戻らないといけないから、急いで沙織ちゃんの座っている玉座へと向かっていった。