□ 告白 □
本当に鬼って存在するんだって真剣に思えるくらい恐ろしい形相の雲雀さんが立っていて、冷や汗のようなものが出てきた。
「君たち、何してるの?」
「え…えっと…」
何してるのって言われても、気がついたら入れ替わっててしかも膝枕されてて…ああ、でも膝枕なんて普通はしないよね。これじゃ、変に誤解されても仕方ないかも。
「クフフ…みてわかりませんか?膝枕ですよ」
「ふぅん…なんで膝枕なんてしてるの?」
今のうちにさっきは女の子が居てその子と入れ替わったって説明しないとって思って口を開きかけたとき、私より先に六道くんが割り込むように入ってきた。
「なぜ、それを君に言わなくてはいけないのですか?君には関係のないことでしょう?それとも、関係のある仲なのですか?」
関係のある仲…?それはつまり私と雲雀さんが付き合っているかどうかって聞いてるってこと…?私と雲雀さんが?!この人何言ってるの!
「ち、違っ…何言ってるんですかっ…」
「それこそ君には関係ないよ」
完全にどうようして声が裏返ったけど、頭の中はさっきの話でいっぱいいっぱいでそんなことを気にしてる暇もなかった。
「そうですか…その口ぶりだと付き合っているわけではありませんね」
「あ、当たり前じゃないですかっ」
裏返った声のまま否定したら、何がおかしいのか六道さんが小さく震えるように笑い出した。雲雀さんの機嫌がいっそう悪くなったような気がしたけど、どうも気のせいじゃなかったみたいで、全体的に怖かった。きっとあれが殺気っていうものだって思った。
「クフフ…全力で否定ですか」
「ねえ、噛み殺していい?」
雲雀さんがなぜか私の方に尋ねてきたからどうしようと思って六道くんの方を見ると、物凄く真剣な顔でこっちの方を見ていた。さっきまでの様子と違って見えて思わず真剣に受け止めた。
「、単刀直入に言います。僕と付き合ってみませんか?」
「へ?…付き、合う?…え、あの・・・」
話の内容のせいで一瞬、頭が完全に止まった。記憶が正しかったら私と六道くんってさっきあったばっかりだったはず・・・というか、さっきあったばかりなのにこの展開って何??も、もしかしたら聞き間違いとか・・・。
「そ、それは・・・・だ、男女関係の?」
「そうです。彼氏彼女とかいうものです」
やっぱり聞き間違いとか思い違いとかじゃなかったらしく、きっぱりと答えてくれた。ここはやっぱりはっきりと言わないと後が大変になるから一息ついてから口を開いた。
「ごめんなさい。私、男の人って苦手なんです・・・だから」
「嫌いなことくらい見ていればわかりますよ。それは慣れていけばいいだけの話です」
六道くんってもしかして相当押しが強い?このまま行くとなんだかヤバイような気がする。なんていうか、何を言っても言いくるめられる…そんな感じがしてきた。なんていって断ろうかなって考えてたら雲雀さんが急に六道くんと私の間を遮るように入ってきた。
「ねえ、なに勝手に話を進めてるの…は君となんかと付き合うつもりなんてないことくらいわからないの?」
「それは君が決めることじゃないですよ。が決めることです」
雲雀さんが入ってきたのは助け舟のように感じたんだけど、六道くんと雲雀さんの間に物凄い火花が散ってるのはきっと気のせいじゃないと思う。
「君とは話しても無駄みたいだね。もう話す価値すらないよ」
「そうですね、僕もそう思いますよ」
いつの間にか六道くんが変わった形の槍を持っていて雲雀さんもトンファーを構えていた。まさかと思った時にはもう遅くて二人とも戦い始めていた。二人が激しく動けば動くほど周りの草花が散っていって、景色が変わっていく。この場所が私が凄く好きな場所で、凄く癒された場所。その場所がどんどんと壊されていく。二人が戦っていることよりもずっとそっちの方が嫌で嫌で思わず声を張り上げた。
「な、何してるんですかっやめてください…っ」
止めに入ろうにも二人の戦いの激しさに入り込む余地もなくて、どうしたらいいのか全くわからなくて、ただ声を張り上げるしかなくて…そのうちにだんだんと目頭が熱くなって視界がぼやけてきて、頬の上を暖かいものが滑っていった。そのうちにしゃっくりが出てきて止まらなくなった。
「すみません…泣かすつもりはなかったんです」
六道くんの声が聞こえてきたから顔を上げると、随分と近くに顔があって思わず後ろの方に一歩下がったら六道くんが小さく笑った。その後ろの方で雲雀さんもこっちの方を見ていた。
「誰も取って食べようとしませんよ。ただ、君が泣いていたから…」
「骸さん…」
「別に今すぐに返事が欲しいというわけではありません。だから今日はいったん帰りますね。雲雀恭弥とはまた今度決着をつけます」
そっと頬を撫でると、反対の方の頬に六道くんの唇が音を立てながら触れてきた。一瞬何をされたかわからなかったけど、六道くんが離れてからそっと頬に手を触れてキスされたって気がついた。
「ねえ、はどうするつもりなの?」
「え…わ、私は…」
頭が鈍っているときにいきなり話を振られたから、返事が上手くできなかった。それになんだか答えづらくて視線を合わせれない。
「ふぅん、なんだか気にくわないね…ねえ、」
「はい?」
呼ばれたから雲雀さんの方を向いて見ると、普段とは違う。なんだか切羽詰ったような感じで私の方を見ていた。その視線から逃れられずに固まっていると雲雀さんが口を開いた。
「六道骸なんてやめて、僕にしなよ」
「え…あ、あの・・・」
もしかして…もしかしなくてもこれって六道くんの時と同じ状況?今日はいったいなんなのって思うくらいに驚くことばかりがあって頭が着いていけない。せめて、さっきと同じ展開にならないように注意しながら理由だけでも聞いておかないと・・・。
「あの、なんで私なんですか?」
「そうだね。って前に緑化委員会に居たよね?」
「はい、そうですけど…それとこれってどう関係があるんですか?」
「と僕はその時に会ってるよ」
私と雲雀さんが会っている…?去年って確か、一学期しか行ってないからその時にしか…。いくら思い出そうとしてもなかなか思い当たるふしがなくてがんばって考え込んでいると、雲雀さんが珍しくため息をした。
「覚えてないんだね」
「す、すみません…」
「いいよ、じゃあヒントをあげる…」
「ヒントですか…?」
「そう、ヒント。ヒントは花だよ。じゃあ、これ宿題にするから思い出してね…期限は明日の放課後までだから」
宿題?何それ…というかなんで私なのかを聞いただけなのに、まさか宿題が出るなんて…。しかも期限が明日までって…。完全に固まってる私をよそに雲雀さんはなんだか楽しそうだった。
「そろそろ僕は行くけど…そうだ、ついでに…」
「はい?」
名前を呼ばれたから振り向くと顔が目の前にあって、気がつくと唇に柔らかくて暖かい何かが触れていた。何をされているのかを理解した瞬間、思いっきり離れたけれど、恥ずかしくって顔が火照ったように熱い。
「ふうん、やっぱり初めてなんだね」
「な、な、何するんですか!!??」
舌を噛みかけながらどなっていたら、なぜか雲雀さんが微笑みながらこっちの方見ていた。あまりみることのない表情に少しだけ胸が高鳴る。
「先手必勝だよ。じゃあ、明日の放課後待ってるからね。そうそう、来ないと…」
「こ、来ないと…?」
「そうだね…この続きでもするかい?」
「絶対に遠慮します!!」
その場はいきおいで逃げるように立ち去った。結局、明日の放課後までに思い出して雲雀さんのところに行かないといけないんだと思ったら気が重かったけど、がんばって思い出さないと後が恐ろしいからここは意地が何でも思い出さないと。