□ 裏表 □
あれから一週間も経ったけど、雲雀さんとはあれっきりで私は前と変わらずに過ごしていた。まあ、元々からあまりかかわることなんて無かったからあたりまえといえばそうなんだけど。いつもどおりの日常でいつもどおりの移動教室。忘れ物をしていて一人で教室に帰ろうとした時に黒耀の制服を着た女の子が居た。後ろ姿だけしか見えないけどなんだか困ってるみたいだったから思わず話しかけた。
「あの、困ってるの?」
「……ボスに会いに着たんだけど、教室がわからないの」
こっちの方を振り向いた女の子は少し大きめな目に眼帯をしていた。ちょっとおどおどしているけど、そこがなんだかとっても可愛いくて思わず私の顔が緩んだ。それにしてもボスって何?何かのあだ名かな?名前にしては変だし…とりあえず聞いてみよう。
「ボスって名前?名前にしては変だから名前じゃないよね?」
「…うん。ボスは…沢田綱吉っていうの」
少し上を向いて考えて見る。なんか…そんな名前のが…居た。しかも私のすぐ隣の席に。これってある意味運命的出会いってやつかも。それにしてもこんな可愛い子と沢田くんが知り合いだったなんて…ん、待ってよ。もしかして彼女って可能性もありえるんじゃない?だってわざわざ並盛まで来る関係だし。
「えっと、沢田くんの…彼女?」
「ち、違う…そんなんじゃないの」
顔を真っ赤にして首を小さく振ってる。ということは彼女じゃないってことかな。あ、そうだ。ついでに名前聞いておかないと。
「名前がわからないと不便だから名前教えてくれない?私は 」
「クローム……クローム・髑髏」
そっか、髑髏ちゃんか…って、ええ!?何、それ…本当に名前??自然に言ってくれたから思わず頷いちゃったけど…どう見てもおかしいよね、その名前。
「ええと…本当にそれが名前なの?」
「うん…今の私の名前。骸さまにつけてもらったの」
なんだか凄く真面目に答えてくれてるからたぶん冗談じゃないと思うけど…それにしても今の名前って…ああ、きっと改名とかしたっていうことにしておこう。それにしてもいったい何を思ったらクローム・髑髏って名前になったんだろう。
「じゃあ…クロームちゃんでいい?私のことはでいいから」
「うん…それでいいよ」
「クロームちゃん。沢田くんは私と同じクラスでしかも席が隣だったりするんだけど…」
「そうなの?…よかった。これでボスに会える」
控えめに喜んでいるクロームちゃんを見て、やっぱり可愛いなと思って顔が緩んでいるとチャイムの音が響いた。あ、授業始まっちゃった…ま、いっか。
「…授業、いかなくていいの?」
「いかないといけないんだけど…次の授業って家庭科だし、別にいいかなって思ってきて…それに私が行ったらクロームちゃんが困りそうだもん」
「え、わたしのことは別にいいよ…?」
「じゃあ…私がサボりたいからサボるの。だって天気もいいし…あ、そうだ!日向ごっこしない?うん、そうしよう!」
クロームちゃんはどうも遠慮がちなところがあるみたいだから多少強引でもいいよね?というか強引なくらいがいいかも。それに家庭科の実習のエプロン作りもほとんど終わってるから多少サボっても大丈夫だし。少しだけ困ってるクロームちゃんの手を引くと、そのまま校舎を出て裏手に回ると少しだけ森のようなところがあってそこの一番日当たりのいい場所に腰をかけた。
「ここって内緒の場所なんだよ?裏手にあって鬱蒼としてる感じがするけど中にはこんな風に日当たりのいい場所があるの。だからね、たまーにここでこっそりと昼寝をしたり、お昼を食べたりするの」
「そうなんだ…」
「それにね、ここって沢山の種類のお花や木があるの!」
「お花、好きなの…?」
「うん!綺麗で、可愛くて…大好き!それになんかね…咲いてるとがんばってるんだーって感じがして私もがんばろうって思うの!…あ、なんだか私ばっかり話してるね」
なんだか興奮して思いっきり一人で話してたけど…もしかしたらクロームちゃんはあんまり楽しくないのかもしれない。そう思って横を向くとクロームちゃんは首をゆっくり振っている。
「ううん…話、聞いてると面白いから」
「あ、ありがとう!そう言ってくれると嬉しいよ!」
もう遠慮なんてしなくて思いっきりクロームちゃんに抱きついた。クロームちゃんは驚いているのか、かなりうろたえているけど完全に無視して頭を撫でた。その時、視界にシロツメグサが入ってきて、ふと指輪とか髪飾りを作りたくなった。
「ちょっとまってねーいいもの作ってあげるから」
「いいもの…?」
シロツメグサを数本だけごめんねっていって取ると、小さい頃したように茎に穴を開けて通して指輪と髪飾りを作る。
「これ、あげるね。うん、すごく似合ってるよ!」
「…あ、ありがとう」
照れながら、はにかむように笑ったクロームがやっぱり可愛いなって思って思わず笑顔になってしまう。今日はやたらと顔の筋肉が緩む日だなぁって思ってたら、だんだんと眠くなってきた。日の光が凄く暖かくて、眠い。だんだんと瞼が重くなってきた。
「ごめん、なんか眠いからちょっとだけ寝るね?チャイムが鳴ったら起こして…」
「うん…」
返事を聞くとそのままゆっくりと寝転んだ。本当に、春の暖かな日差しがとても暖かくて、なんか安らぐ。意識がだんだんと薄らいでいくのを感じながら眠りに着いた。
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チャイムの音でうっすらと意識が現実に引き戻された。まだ眠いけど、がんばって目を開けると知らない男が居た。なんていうか、これがきっと青天の霹靂とかいうやつなんだろうか。本当に雷が落ちたかと思うような衝撃でした。
「おや、起きましたか?」
「あなた、誰ですか?」
「僕は六道 骸です」
「六道さん…なんでここに居るんですか?というかクロームちゃんが居ましたよね?」
「クロームは僕と代わってますね…まあ、クロームの代理というところです」
つまり、クロームちゃんはこの人と入れ替わってどこかにいったってことかな?それにしてもこの人なんで後ろに空があるんだろう…ん、これってもしかして膝枕?!!今すぐにでも逃げないとって思って起き上がろうとしたら思いっきりおでこをぶつけた。
「痛っ…」
「慌てるからですよ」
おでこを抑えてるから顔はわからないけど…なんだか凄く呆れているような感じがする。そんなことよりも怖いって感情がだんだんと顔を出してきた。なんか最近はついてないことばかりな気がする。
「おや、寒いですか?震えてるようですが…」
「こ、これは…」
いきなり額に向かって手を持ってきたから思わず「触らないでっ」って言って叩いた。驚いたような六道さんの顔と静寂だけが辺りを支配した。
「これはこれは…そうですね、驚かせましたね。大丈夫ですよ、ただ熱を測ろうとしただけですから」
「ご、ごめんなさい…私ったらつい」
早く、早くこの場から逃げたい。でもどうやって逃げよう…そう考えていると草を踏みしめるような音がしたからそっちを向けば雲雀さんが居た。