□ 服装 □



京子ちゃんたちに教えてもらったお店に一人で買い物に出かけたのはいいけど、帰りのことを考えずに行ったせいでかなり大変な帰り道になってる。久々に買い物に出かけて色々と買っていたら、荷物が相当な量になってて両手が塞がって歩きにくい。やっぱり必要なものはこまめに買っておかないといけないんだなぁって今頃になって気がついた。

「大変そうだね、

いきなり後ろの方から聞き覚えのある声がしてきて、驚いて振り向くとほんの少し離れたところあたりに恭弥さんが居た。恭弥さんの方は私のほうにゆっくり歩いてきてすぐそばまで近づいてきた。

「へっ…あ、恭弥さん…。いきなり声かけないでください。びっくりするじゃないですか…」
「ずいぶんと買ったね。いつもそんなに買ってるの?」
「たまたまですよ。今日は京子ちゃんに教えてもらったお店に行ってきたんですよ。それで服とか小物とかを買いだめしてきたんです。満が買ってくる服ってどうも歩きづらくて…」
「ふうん…じゃあ、それも満が買ってきた服なの?」

丁度、私が来ている服を指さしてきた。白と黒を基調にした無駄にフリルとリボンがついた服。スカートなんて制服と違って中に何重ものフリルが入っていて柔らかく膨らんでいて、後ろの方で大きめのリボンで留めている。たぶん、一般的な服じゃないと思う。まわりの子を見てるとそれだけはわかった。

「そうですよ。でもよくわかりましたね」
「…なんとなく、君に喜んで着させようとしてるのが浮かんだんだよ」
「あ、あはは…それにしてもこの格好おかしいですよね…私はみんなと似たような感じの服でいいのに…」
「別に。それは人の趣味の問題だから恥じることなんて無いよ。それに、君の場合はそんな感じの服が一番いいと思うよ」

今、もしかしてほめられてた?なんだか凄くわかりづらいんだけど…でもでもと考えても仕方ないから聞こうとして振り向くとなぜか視線を逸らしてる。え、もしかして照れてるとか…いや、恭弥さんに限ってまさか…とか思ってたらいきなりこっちの方に振り向いて手に持っていた荷物を取り上げられた。

「あ、あの…恭弥さん。荷物…」
「なに?見てわからないの?持ってあげるから行くよ。家に帰るんでしょう?」

荷物持ってくれるんだって思ったらなんだか嬉しくなって顔がにやける。そのにやけた顔のまま「ありがとうございます」って言ったけど、顔のにやけがとまらない、どうしよう。

「ほら、さっさと行くよ」
「はい!…え、なんだか歩くの早いですよ!」

行くよと言ったとたんにさっさと歩き初めた恭弥さんの後ろを追いかけるけど、なぜか凄く早い。着いて歩いていくのがやっとで結構疲れる。こうなったら服の裾でも引っ張っとこうって思って恭弥さんの服の裾を捕まるように引っ張った。

「なに?どうかしたの?」
「あの、歩くのが早いから捕まっておこうかなって…」
「服が皺になるから引っ張らないでくれる?引っ張るくらいなら腕でも掴んでてよ」
「そうですよね、皺になりますよね。わかりました」

皺になるってことをしっかりと忘れてて、ちょっとだけ悪かったかもって思いつつ恭弥さんの腕を掴んで歩いた。さすがに歩く速度を少しだけ緩めてくれてさっきよりも歩きやすくなった。

「ねえ、その服を着て買い物にいったんだよね…?」
「そうですけど…?」
「ふうん…。無事にお店につけたの?」

無事にって何だろうって一瞬思ったけど、そういえばお店に入るまでが結構大変だった気がする。知らない人間に声をかけられまくったんだっけ…。しかも親切なふりをしてるけど結局はどっかに行こうって誘いばっかりでうんざりしてたんだっけ。でも、こんなこと恭弥さんに言ったらいけない気がする。

「ちゃんと着きましたけど…」
「ほんとに?…まあ、ちゃんと買い物できてるんだから着いたってことだよね」
「そうですよ。それにお店の人も親切でおまけをたくさんくれたんですよ」
「そう、それはよかったね…。実は少し前からを見かけてたんだけど」
「え…それが…」

今、少し前って…それって恭弥さんが私に話しかける前ってことだよね…そういえば話しかけてくる人が恭弥さんに会う少し前から極端に減ったっけ…。なるほど、恭弥さんが追い払ってたんだ。

「そういえば、その服なんだけど…」
「この服ですか…?」
「うん。そういう感じの服は僕と出かける時にだけにしなよ?」
「え…満のセンスで選んだ服をですか?」
「そう。あとは草食動物たちと同じ服装でいいから…。そうだ、もういっそうのこと制服を私服にしなよ。うん、それがいいね。」
「それだと今日買った服が無駄になっちゃうんですけど…」
「それは女友達と遊びに行くときにだけ着ればいいよ。後、僕以外は制服でね。わかったかい?」
「……はーい。」

なんだかあんまり納得が行かないけど、とりあえず頷いてないと絶対に怒りそうな気がするから頷いた。それにしても恭弥さん、物凄く機嫌がいいなぁと思いながら歩いていると道端に少年が倒れているのを見つけた。

「あの、恭弥さん…人が倒れてますよ?」
「うん。倒れてるね」

返事だけ返してくれたのはいいけど、どうも無視する気らしくてそのまま通り超えて行こうとする。それはいくらなんでも可哀相な気がして倒れている少年の近くに駆け寄って、ゆっくりと揺さぶる。

。何してるの。そんなのかまってないでさっさと行くよ」
「でも、かわいそうですよ。」

もう少し強く揺さぶって見ると少年は小さく呻くとうっすらと目を開けて、ぼんやりとした目でこっちの方を見てきた。

「綺麗…天使…それとも、女神?」
「あの、頭大丈夫?どこか強くぶつけたの?自分の名前ちゃんと言える?」
「いりえ、しょういち…」

名前はちゃんと言えるみたいだから大丈夫かな…。でもどこかぶつけてるかもしれないしちゃんと確認しておかないとって思って頭をそっと撫でながらたんこぶがないか確認していると、少年はいきなり勢いよく起き上がった。

「え、あの、こ、これって現実?!」
「あ、大丈夫みたい。凄く元気そうだもん」

勢いよく起き上がった少年は人の顔をじーっと見たと思ったら今度はゆでだこみたいに真っ赤になり始めた。まあ、たまにこんな不思議な人居るから気にしないけど。

「いりえ君だっけ?君ちゃんと一人で帰れる?」
「あ、はい!大丈夫です!」

まるで棒のようにぴんと伸びた姿勢で立ち上がったからなんだかおかしくて少しだけ笑いがもれた。家にちゃんと帰れるか聞こうとしたら、なぜか恭弥さんが割り込むように入ってきた。

「なら早く帰りなよ」
「きょ、恭弥さん?どうしたんですか、急に」
も早く行くよ。その子は大丈夫らしいからね」

ほけっとしている少年を横に片手に荷物をまとめると、なぜか私の腰に手を回すとせかすように歩き始めた。さっきの子は気になって仕方ないけどこの状態だと身動きがとりづらい。結局、家の前に着くまでずっとその体勢のままでかなり歩きづらかった。

「なんだか、今日の恭弥さんちょっとおかしくないですか?」
「君のその格好がいけないんだよ」

私の格好が?そういえば満もやっぱり似合いすぎですとかいいながら手で鼻を覆ってたっけ…。そっか、今度から着ないようにしないと…あ、でも恭弥さんは一緒の時には着て欲しいみたいなこと言ってたっけ。

「だから一人で出かけるときは絶対に制服を着ること。風紀委員の紋章は絶対につけてね。わかった?

紋章も付けてって…それってほとんど見回りしてるのと変わらないんじゃないのかなって思いつつ「はい」って返事を返していると、なぜかじーっと恭弥さんがこっちを見ている。私の方も不思議に思ってみていると恭弥さんの顔がだんだんと近づいてきた。これってヤバイんじゃ…?って頭の片隅で思っていたら、ふいに額に口付けされた。

「今度は額じゃ済まないから。じゃあね、

それだけ言うと荷物を足元に置いて恭弥さんは帰っていった。恭弥さんが立ち去ってからも私の顔は恥ずかしさと照れるような微妙な感情で熱を持っていた。心臓は五月蝿いくらいに鳴っているし…なんだか前にも似たようなことがあったけど…でも額だけじゃ済まないって何?!思わず顔を覆ってその場に座り込んだ。