□ 観戦 □
いつものように校門で服装のチェックをしていたら、道のずっと向こうの方から土煙と雄たけびのような声が聞こえた。なんだか物凄い速さで学校の方に向かって走ってきてるみたい。それはどんどんと近づいてくるとそのまま私の横をすり抜けて行った。今通ったのってなんだか凄く見覚えのある人物だったような気が…。
「さっきのって…沢田くんだったようなぁ…しかも後ろにもう一人いたような気が…ま、いっか」
気にせずに入ってくる生徒の服装をチェックしていると、また向こうの方から大きめのカバンを抱えて走ってくる子が居た。あれは確か…京子ちゃん。がんばって走ってるなぁ。
「おはよう、京子ちゃん」
「あ、おはよー!ちゃん」
「なんでカバン持って走ってるの?」
「あのね、お兄ちゃんがカバンを道におっことしたみたいなの!だから届けようって思って」
「そうなんだ…うっかり屋さんなお兄ちゃんだね」
「あはは、そうだよね。ほんとにお兄ちゃんは…もー!あ、じゃあわたしもう行くね?」
「うん、ばいばい」
京子ちゃんはまたカバンを抱えながら走っていったから手を振りながら見送った。それにしても今日はバタバタしてるなぁ~って思いながら服装の違反者チェック表を片手に持っていると草壁さんが近づいてきた。
「そろそろ委員長が来るぞ、」
「あ、はい。もうそんな時間だったんですね」
腕時計を見ると8時半前でもう少しで予鈴が鳴るか鳴らないかって時間だった。校舎の方を振り向くと出入り口辺りに恭弥さんが居て、こっちの方に向かってまっすぐに歩いてきていた。ふと、この間のことを思い出して顔が熱くなってきた。目があったけど、思わず逸らしてしまった。
「やあ、おはよう。」
「お、おはようございます」
「…ねえ、なんで目を逸らすの?」
この間のことを思い出したらなんだか恥ずかしくなったんですってとても言えないから困っていると、顔を掴まれた。掴まれたと思ったら今度は目の前に恭弥さんの顔が飛び込んできて、心臓が飛び出るかと思うくらい驚いた。
「え、あ…あ、あの…」
「話すときはちゃんと目を見て」
なぜか顔がますます近づいてきて、どうしようかってくらいに頭の中がぐらぐらする。顔がますます熱くなってくるし、心臓が五月蝿いしでほんとうに泣きたくなってきた。恭弥さんの方は何か気がついたらしくてじーっとこっちの方を見ているみたい。
「もしかして…照れてる?」
「ご、ごめんなさいっ!そろそろ授業が始まるので失礼します!」
一瞬だけ、顔を抑えていた手の力が緩んだ。その隙に体を下にずらして、手をはずすとさっさと校舎に向かって走った。後できっと何か言われるんだろうなってことはわかってたけど、今はそれよりも恥ずかしさの方が勝った。教室に入って席に着く頃には丁度、授業開始のチャイムがなった。
******
今日は昼になっても応接室に行く気になれなかった。メールで'お友達とお昼一緒にします'というメールを送ると久々に京子ちゃんたちと一緒にお昼を食べた。放課後になっても応接室に行く気が出なかったからどうしようかなって思って教室の机に座ってたら京子ちゃんが話しかけてきた。
「ちゃん。もしよかったら一緒にボクシング部を見に行かない?」
「ボクシング部?何かあるの??」
「あのね、ツナくんがボクシング部の見学に行くんだって。だから様子を見に行って見ようかなって思って」
今、京子ちゃんツナくんって呼んでた…私も呼んでいいか今度聞いてみようっと。ああ、それよりもボクシング部だったっけ…沢田くんが行くんならなんだか何かありそう。様子だけ見に行って見ようかな。
「うん、いいよ」
「よかったー!ね、じゃあさっそく行こうよ!先に獄寺くんと山本くんも行ってるから急ごう!」
京子ちゃんは凄く嬉しそうに私の腕を引っ張ると、そのまま軽い小走りで階段を下りていってボクシング部の前までいっきに進んだ。ボクシング部の前には山本くんと獄寺くんも居た。
「なんだ、かぁ」
「おめぇ、何しに来たんだ?」
「何って…京子ちゃんに誘われて沢田くんの様子を見にきたの」
「みんな、入るよ?お邪魔しまーす!」
京子ちゃんが扉を開けて入っていくから、みんな慌てて後れを取らないように入っていく。中に入ると沢田くんがなぜか先輩らしき人物とコートの中に居た。確か見学に行くって聞いたけど…あ、そっか。きっと体験入学なんだ。
「ツナくんがんばってー!」
「十代目~!」
「負けんなよ」
「沢田くん、応援してるからね」
「な、みんなきてるー?!」
沢田くんはみんなが着てることに顎が抜けるって感じの表情で驚いていた。ふと、リングの上を見ると象さんの被り物をきたリボーンが居て少しだけ驚いたけど、沢田くんが居るから居ても普通かもって思った。リングの方に目を向けると沢田くんが一方的に攻められていた。
「なんだか一方的に見えるんだけど…」
「ばっきゃろー、十代目はなここぞって時に力を発揮するんだよ」
「そうそう、ツナはいつもここぞって時に力を出すんだよなぁ」
「そっか、ならそのうちに挽回するんだね」
「おう、しっかり見とけよ」
獄寺くんは沢田くんの方に向かって大声で応援し始めた。なんだろう、沢田くんを語ってる時の極寺くんは凄く生き生きしてるように見える。ん、今とっても音が小さかったけど何か金属音が…音が微かにした方を見てみるとリボーンが銃を構えていた。まさか、死ぬ気弾で撃つつもりなんじゃあって思ったと同時に打ち込んでいた。でもその玉は沢田くんじゃなくて対戦相手に当たった。
「え、嘘…リボーンに限って外すなんてことはないはずよね…ならわざと…?」
「何?どうかしたのちゃん」
「あ、ううん。なんでも無いよ?」
あれ、打たれたはずなのに…あの対戦相手って全然変わらない?これはこれで凄いかも。ふとリボーンの方を見るとまだ銃を持ってた。まさかって思ったけど…ああ、結局沢田くんも打たれてる。しかも「死ぬ気でボクシング部入部を断る!!」って叫ぶと凄い勢いで攻撃してる。おかしいな、私はてっきり入部するから見学に来たのかなって思ったんだけど…もしかしてリボーンのせいかも。それにしても…あの攻防戦は普通じゃ見れないってくらいに凄いかも。
「かわすツナもすげーが…あのラッシュも常人のものじゃねえな…」
「ありゃあ殺しのそれだ…」
「うん、もう一般人の域を超えてるよね…」
攻撃をずっとかわしていた沢田くんだったけど、次の瞬間に右ストレートで相手を飛ばした。対戦相手は窓の辺りまで見事に吹っ飛んでみんな一瞬驚いて静まり返ったけどすぐにまた音が戻ってきた。
「さすが十代目!」
「勝ったんだ…沢田くん、おめでとう!」
すぐに京子ちゃんが対戦相手の方に向かって「お兄ちゃん!大丈夫?」って言いながら走っていった。え、京子ちゃんのお兄ちゃんだったんだ…。京子ちゃんのお兄ちゃんはすぐに起き上がると「必ず迎えに行くからな!」って言ってた。かなり凄いお兄ちゃんかも…あ、リボーンが勧誘してる。本当にリボーンは強い人を見るとすぐファミリーに入れたがるんだからって思ってらなんだか苦笑いがもれた。それを獄寺くんに見られて凄く不思議そうな顔でこっちを見てた。試合も終わったから、とりあえず挨拶だけして今日は帰った。