□ 医者 □



ヒラヒラして凄く目立つ私服を着ないで代わりに制服に着替えてから沢田くんの家に行ってみると、屋形船の模型を来たハルちゃんとばったりと遭遇した。どうもハルちゃんも沢田くんに用事があってきたらしくて、そのまま一緒に行きましょうって言われて部屋の前まで引っ張っていかれた。人の家に断りもなく入るのはさすがに気が引けたけど、そんなの関係ないって言わんばかりに部屋の前まで来るとすごくご機嫌に扉を開けてハルちゃんは部屋の中へと入っていった。

「ツーナさん!見てください!文化祭の演劇で、ハル屋形船やることになったんです!」
「ごめんね、勝手に上がっちゃって……あれ、沢田くん?」

沢田くんが、なんだかいつもと違う気がする。なんだか震えまくってるし、顔なんて泣きじゃくってる。そういえばベッドに変な格好の人が……寝転んでる……?

「あ、ツナさん達も劇の練習ですか?すごーい!リアルな死にっぷりですー!」
「え、劇の練習中だったの?でも、うちのクラスって劇なんてしてたっけ?」
「ちがうよ。オ……オレが本当に殺しちゃったんだ」

今……なんだか凄い言葉を聞いたような気が……え、え、殺したの??!!嘘っあの沢田君が?!横でハルちゃんが驚きのあまり足を滑らして屋形船を壊してた。あまりの驚きで動けずに居たら、山本くんと獄寺くんの声が聞こえてきた。これって……もしかしなくてもかなり不味い状況?どうしようと思って周りを見たら、沢田くんとハルちゃんは二人して同じように隠れようとしてる。

「よおツナ!」
「おじゃまします、10代目!」
「お、おはよう二人とも」
「ん、おめぇーも来てたんか」
「よお、。なんだ、お前もヒマ人か」

なんとも言えなくて無理に笑うと、自然と乾いた笑いが出てきた。二人とも周りの状況に気がついたらしくて回りを見渡しはじめた。そこで震えて机の下に潜ってるハルちゃんと、頭を掴んで座り込みながら震えてる沢田くんに視線を送った。

「なあ、……ツナたち何してんだ?」
「かくれんぼ……スっか?」
「あの、その……えっと……」

言葉に詰まってると沢田くんが呻きながら出てきた。それにつられるようにハルちゃんも出てくる。本当のこの二人って息がぴったりだなぁって思って眺めてるといきなり叫び始めた。

「オレの人生は終わったんだ~~!!もー自主するしかないーー??!」
「ツナさんが刑務所から出るまでハルまってますーー!!手紙いっぱい出しますーー!」
「落ち着いて二人とも!たとえ捕まったとしても今は15年で出れるらしいから!出ても29歳だからまだ大丈夫よ!」
「そんなの聞いてもなんのなぐさめにもならないよ!ってか生々しいよ!」

つい、一緒になって言っちゃったけど。確かにそうかもって、ちょっと納得しながら頷いていると横から山本くんが肩を叩いてきた。そういえば、この二人は着たばっかりだったっけ。

、いったいどうなってんだ?」
「えっとね、その……沢田くんが人を殺しちゃったとか……ほら、そこのベッドに居るの人」
「はあ?!なんで10代目が?」
「私に聞かれても困るんだけど…」

私が困ってると、山本君が獄寺くんの肩に手を置いて笑いながら「落ち着けって、ツナにちゃんと聞こうぜ?」と言って落ち着かせてくれた。

「ツナも落ち着けってよ。まだツナがやったって決まったわけじゃないだろ?」
「そーっスよ。だいたいこいつ本当に死んでんスか?」
「そういえば、まだ確かめてなかったわよね」
「え、ちょ…二人とも?!」

獄寺くんがタバコに火を付けてベッドに近づいていった。その後ろから覗き込んで顔を見てみると、どことなく見覚えのある顔が見えた。え、これって……ずいぶん前に見たからあまり確信がないんだけど、ボンゴレの特殊工作員…確か「殺され屋」のモレッティ。なんでここにモレッティが?もしかしてメールの黙っとけってモレッティのこと?ちらっと近くに居るリボーンを見てみると、怪しい笑いが帰ってきた。

「おい。起きねーと根性焼きいれっぞ」
「ひぃ~~!!獄寺君なんてことを~~!」

ほんとに死んでるかどうか確かめようとしてるのか、わからないけど獄寺くんがタバコを押し付けようとしていた。どうしよう、言ったの方がいいのかなって悩んでると、リボーンの視線が言うなって言ってるように見える。

「その必要はないぞ、医者を呼んどいた」
「え、あのリボーンが……お医者さんを?」
「い…医者って、まさか…」
「沢田くんは知ってるの?」
「うん、ちょっと思い当たるのが……」

ずるって音がしたから見てみると、リボーンが酔っ払いのおじさんを引きずってきていた。え、まさかお医者さんってこの人がって不振がってたらリボーンが「Dr.シャマルだ」って紹介してきた。その名前って、昔どこかで聞いたことがある気がする…気のせいかなって思いかけた時に、獄寺くんがDr.シャマルを見て驚いてた。獄寺くんの話だと、実家の専属医の一人だった人で、会うたびに女の人が変わってたから、小さい頃の獄寺くんは「誰?」って尋ねてみたら「妹だ」と言われてずっと兄弟が62人も居ると思ってたらしい。横で盛大に笑ってる山本くんに怒鳴ってるけど、ごめん、私も笑いそう。いくらなんでも62人って…。

「よぉ、隼人じゃん」
「話かけんじゃねー!女たらしがうつる!スケコマシ!!」
「なんでーつれねーの……ん、」

Dr.シャマルって人が、なんでかわからないけどこっちの方をじーっと見て止まってる。心のなしか、顔がにやけてる気がする。それに、あまりにじろじろ見てくるものだから居心地が悪くて仕方がない。

「えっと、あの…私に何かついてます?」
「いや、別になんにもついちゃいねぇよ…いやぁ、お嬢ちゃん凄い美人だねぇ~…もう、少し年が上なら本気で口説き落としてるぜ」
「なっ!近づくんじゃねぇ!変態がっ!!」
「あはは、おっさん冗談もほどほどが一番だぜ?」

何言ってるの、この人って思ってたら獄寺くんと山本くんがシャマルとの間に入ってきた。のほほんとしたDr.シャマルと、どことなく怖い感じの山本くんと獄寺くんの間を割るように、沢田くんの声が響いた。

「Dr.シャマル!早く患者を診てくださいよ!」
「そーだった、そーだった」

なぜか、こっちの方に寄ってきて両手を伸ばしてきた。考えるよりも先に体が反応して、後ろの方に一歩だけ下がってその手を思いっきり叩いた。乾いた音が響き渡る。一瞬、その場が静まりかえったけど、Dr.シャマルは一番早く回復したらしくて、自分の手を見つめると「あ痛たた」って言いながら熱いものにでも触ったかのように手を振っていた。

「な、何するつもりだったんですか!」
「何って、患者を診よーとしたんだが…それにしてもお嬢ちゃん、なかなか良い反応してるぜ。そういう意外性があるのって好きだぜ」

こっちの方を見ながらウィンクなんてしてきたから、凄い鳥肌が立ってきた。後ろに下がると、ちょうどタイミングよく沢田くんが入ってきてベッドの方を指差して叫んだ。

「何してるんですか!患者はこっちです!」
「ん…何度言ったら解るんだ?オレは男は診ねーって」
「そういえばそーだったな」
「知ってたよなあ!」

うん、リボーンは絶対にわざとしてるからって心の中で頷いた。うっかり口にしたら、後が怖いし。一人で納得していたら、Dr.シャマルがモレッティの方を眺めていた。

「てか、本当にそいつ生きてんの?瞳孔開いて、息止まって、心臓止まってりゃ死んだぜ」

すぐにハルちゃんと、山本くんと、獄寺くんが確認し始めた。殺され屋のモレッティにそんなことしても無駄だと思うけど…でも言えないからとりあえず眺めながら見てた。獄寺くんが心臓止まってるのを確認すると、場が完全に凍った。その中をまるで自分には関係がないと言わんばかりの軽い挨拶をしてDr.シャマルが帰っていった。みんなが一斉にうつむいて一気に場が静まり返った。本当は生きてるんだけどそんなこと言えないし、この空気どうしよう。