□ 悪戯 □
やっぱり、当事者だけあって一番早くに沢田くんが気がついたらしい。どんよりとした空気の中で、一人で騒いでる。本気で可哀想に見えてきて、思わず本当は生きてるよって言ってあげようかなって真剣に悩む。
「あ~~!やっぱりダメだ!人殺しちゃったーー本当に殺しちゃった!!」
「こんな時のために、もう一人呼んどいたぞ」
「え…」
リボーンが言い終わると同時に、ものすごく聞き覚えのあるバイクの音が響いた。まさか、と思ってたらすぐ近くで止まった。数分もしないうちに、窓が開いて恭弥さんが挨拶しながら入ってくる。
「ヒバリー!!!」
「今日は君たちと遊ぶためにきたわけじゃないんだ」
なるべくみんなの後ろの方に居たんだけど、こっちの方に気づいたらしい。少しだけ、目を見開いて驚いていた。どうしたらいいのかわからないから、とりあえず軽く笑って挨拶してみたら、こっちに近づいてきた。
「どうしてが、ここに居るの?」
「その、リボーンに呼ばれて来たんです……あの、恭弥さんはなんでここに着たんですか?」
「ふぅん、そう。僕は赤ん坊に、貸しを作りに着たんだ。ま、取引だね」
「待ってたぞ、ヒバリ」
恭弥さんは部屋全体を見渡すと、モレッティを見つけたらしく近づく。軽く足で転がして、確認してから「うん。この死体は、僕が処理してもいいよ」と言い放った。え、死体処理……?一瞬、頭が完全に止まった。
「はぁ~~!!?何言ってんの!!?」
「死体を見つからないように消して、殺し自体を無かったことにしてくれるんだぞ」
「いろんな意味でマズいよそれは!!」
気がついた頃には近くまで恭弥さんが近づいていた。え?っと思うまもなく横抱きにされて、そのまま窓まで連れて行かれる。
「じゃあ、あとで風紀委員の人間よこすよ」
「委員会で殺し、もみ消してんの~~!!?」
「え、え、え……そんなことしてたっけ?」
いつも書類に目を通してるけど……そんな書類は一つもなかったはず…もしかして恭弥さんが処理してる方の書類とか?!って真剣に考えてたら「またね」って言いながら窓から飛び降りた。着地の衝撃はそんなに無かったけど、まるでエレベータに乗ったような感じがした。すぐに地面に下ろされて、いきなりトンファーを取り出したからいったい何って思って上を向くと、なぜか獄寺くんがダイナマイトを投げてる。恭弥さんはそれを綺麗にすべて投げ返していた。
「行くから、バイクに乗ってね」
「あ、はい。あの、どこに向かうんですか?」
「学校だよ、風紀の書類がまだ少しあるからね」
なんだか、態度が全く普通。そして、バイクに乗って学校へ進んでるのもいつも通りの行動。この間のことなんて無かったみたいに、ものすごく普通の恭弥さんを見てると、一人で考え込みまくってた自分が馬鹿みたいに思えてきた。沢田くんの家が近いせいか、あっという間に学校に着いてそのまま応接室に向かった。いつも通りにお茶を入れて、座るとこの間と全く同じ構図になった。
「ねえ、なんで反応がいつもと同じなの?」
「はい?いつもと同じって……」
「はこの間、僕に向かってなんて言ったのか覚えてる?」
こっちの方をじっと見つめてくるから思わず視線を逸らした。えっと、この間って……え、あ……そういえば、恭弥さんに馬鹿って言ったような……気がする。
「えっと、その。ば、馬鹿って……でもあれは!恭弥さんが悪いんです…!」
「は?なんでそうなるの?」
思わず立ち上がって恭弥さんの方を見ると、ものすごく以外って顔でこっちを見てきた。でもそれも少しのことで、何かに気づいたらしくて割りと真剣な顔でこっちの方を見てきた。
「……、もしかして…」
「そうです!……は、はじめてだったんですからぁ……」
恥ずかしさのあまり、涙が滲んできた。なんか最近涙腺がもろい気がしてきたかも。心なしか恭弥さんの方は、なぜか凄く嬉しそう見えるし。
「真剣なのに……」
「なら、僕もってことで……お互い様で良いんじゃない?」
お互い様って…それに僕もって……ってことは恭弥さんも初めてってことで…ちょ、初めてであれっておかしい。思わずじっと恭弥さんを見つめた。見た目からだと、別に照れてるというわけでもないし、普通どおりに入れたお茶を飲んでるから、いつもと変わらないように見える。
「ほんとですか……?でも、はじめてであれって……恭弥さんって、そうとうエロいんじゃ……」
「へぇ……はそんなこと思ってたの?」
思わずうっかり口にしちゃった言葉を、見事に聞き取ってくれたらしい。恭弥さんは立ち上がると、私が座っているソファまで来てすぐに横に座った。この間の光景が思わず頭に浮かんできて、反射的に後ろに少し下がった。
「別にいいよ?どんな形であれ、僕たちが付き合ってるってみんな知ってるからね。」
なんだかすごく、嫌な予感がしてきたけど動けなかった。どうしようって悩んでると、肩を捕まれて、そのままソファに寝かされた。まるで蛇に睨まれた蛙になった気分。
「なんなら、ここで既成事実を作っておくってのも楽しそうだよね」
くすくすと笑いながら言うと、同時に襟元にあったリボンを引っ張って解いた。これには本気でヤバイと思って目を思いっきりつぶった。
「ご、ごめんなさいっ!嘘です!さっきのは撤回します!」
「最初から、素直にそういえば良いんだよ」
どいてくれるかなって思ったけど、なぜかじっと首辺りを見ている。不思議に思っていると、まるで悪戯をする子供のような雰囲気を出しながら「これ、付けといてあげる」って言いながら首筋に頭を近づけてきた。首に何か柔らかな感触がきた後、すぐに軽い小さな痛みが走った。
「え、あの…今、何をしたんですか?」
「帰ってから、確かめてみたらいいよ。それより、早く仕事済ませといてよ?僕は、ちょっと見回りに行ってくるから」
恭弥さんが出て行った後、時計を見てそういえばいつもこの位の時間には行ってたっけと思い出した。首は家に帰ってからでも確認したらいいかなって思ってあまり気にせずに仕事に取り掛かった。そのあと、恭弥さんが帰ってきて、すぐに家に帰れたからよかったけど……首に虫さされのような赤い模様がついていて、かなり焦って上から絆創膏で隠した。