□ 心配 □
体育祭が終わったあと、逃げるように一人で帰った。満や天空を置いてきたのは悪かったかなぁって家に着いてから思ったけど、いまさら学校に引き返すっていうのはちょっと嫌だったから一応メールで先に帰ってるってことだけ伝えた。自室のベッドに寝転がると、どっと疲れが出てきたらしくて、意識がだんだんと薄れていく。ふと気がつくと、いつの間にか眠っていたみたいで満に晩御飯の準備ができたからって起こされた。あんまり意識がはっきりしない頭のままで食卓に向かった。テーブルには鯖の煮付けとキュウリの漬物と味噌汁が並んでる。
「どうかしたんですか?なんだか、ぼーっとしてる気がするんですけど……」
「え、あ……なんでもないから大丈夫よ、寝起きだったからじゃない?」
「そうですか…?」
「うん、きっとそうよ。あれ、そういえば天空は?」
「ああ、天空なら……ほら、そこで寝てますよ」
満の目線を辿っていったら、窓の下に水色のクッションの入った小さな籠に丸まって寝ている黒猫がいる。それを見てなんだか納得した。きっと人型を維持するのに気力を使い切ったんだ。
「帰ったと同時に猫の姿に戻って眠ってしまったんです」
「無理して人型になるから……別に猫の姿でもいいと思うのに」
「一応、元は人間ですから…あ、それより今日の鯖の煮付けとても自信があるんですよ!」
言われた通り一口食べてみると、味噌をベースにしたあっさり仕上げで本当に美味しい。なんだか、ちょっとだけ幸せな気分になって思わず笑みが零れる。
「うふふ、実はですね。今日の体育祭の時に沢田さんのお母様にレシピを教えてもらったんですよ!」
「そっか……よかったね、レシピ教えてもらえて」
「はい!そういえば、体育祭の時に姿が見えなかったんですが……また委員会の仕事での見回りですか?」
とてもじゃないけど、正直なことが言えなくて言葉に詰まる。そういえば、あの後ずっと屋上に居たからみんなと会うことなかったんだっけ、と思い出した。後でみんなにも適当に説明しないと……あ、でも委員会があるって言ってるから、みんな委員会の仕事してるって思ってるかな……思っててくれたらいいなぁ。ふと気がつくと不思議そうに満がこっちの方を向いていたから慌てて口を開いた。
「え、えっと……まぁ、そんな感じ」
「なんだか凄く誤魔化されてる気がするんですが……」
「気のせいよ。それより、早く食べないとご飯が冷えるよ?せっかく美味しくできたんだから暖かいうちに食べようよ」
「それもそうですね」
なんとか誤魔化すと、話題が戻らないうちに晩御飯を急いで食べた。満って変なところで鋭いから、いつ的確な質問をされるかわかったものじゃない。ご飯を食べ終わると、部屋に戻ってベッドの上で寝転がる。ふと、体育祭のことを思い出した。もう本当にどうしようってくらいに頭がぐるぐると回ってくる。でも、恭弥さんに深い意味はないんだろうなぁって思ったら、なぜかため息が出てきた。
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どれくらいそうしてたからわからないけど、ドアをノックした音で結構、長い時間ぼーっとしていたことに気がついた。ノックされて開いたドアの向こうには満が立っていて、いつも笑顔でいる満は珍しく真剣な顔でこっちを見ていた。私もベッドから体を起こして満の方を向く。
「満?どうかしたの?」
「あの、やっぱり……何かあったんですか…?なんだか体育祭からずっと上の空って感じですけど…」
満は、本当に極まれに私の感情を読み取ってしまうことがある。数年間という長い間、一緒に生活していたせいかもしれないけど、本当に細かいところに気づいてくれる。だから隠し事なんてほとんどできなかくて、いつもなら言うんだけど……今は言う気がないから返事に困った。
「私は……さまに、救ってもらいました。だから、もし何かあったら私も救いたいんですっ」
「満……本当に、何もないから大丈夫。それに、私は満に沢山救ってもらってるよ……?」
両親が居ない私にとっては、母のようで姉のようで……本当の家族のような存在。とても、大切に思える。だから、それだけで本当にいいのに満たちは、もっと沢山のことをしたいみたいだった。
「でもっ……できることって言えば家事をすることだけですよ?私は、もっと役に立ちたいんですっ」
「……うん。でも私は、それでもずいぶん救われてるから……」
それだけで十分だよ、と言おうとしたらベッドの端に置いてあった携帯が二回震えた。慌てて携帯を取って、誰からのメールかなって思って携帯を開けてみると、リボーンからのメールだった。教えた覚えないんだけど……いったいみんなどこでメアドを手にいてるのか気になったけど、よく考えたらリボーンには変わった情報収集がかりが沢山いるからそこからかな。メールの中身を見るとシンプルに「明日、午前中にツナの家に来い。何を見ても黙っとけよ」とだけ書いてあった。
「メールですか……?」
「うん。リボーンがね、明日の午前中に沢田くんの家に来いって」
「リボーン……?それってもしかして、リボーンさんのことですか?!」
あれ、そういえばリボーンが沢田くんの家庭教師してるってまだ言ってない。なんていうか、こんな衝撃的な話を言う機会がなかったから、ずっとそのままにしてたんだった。満はかなり驚いてるらしくて頭を抱え込んでた。
「なんで、なんでリボーンさんから連絡が来るんですか??!!というか、なんで日本にリボーンさんが居るんですかー!?」
「落ち着いて、満。あのね、リボーンは日本に沢田くんの家庭教師で着てるの。というか、体育祭の時に居たよね?」
「え、そういえば……そっくりさんが居るなぁって思ってましたけど……まさかご本人だったんですか!?」
「うん、そのまさかのご本人」
普通はそこで気づこうよ。いくらなんでも私でも気がついたのに……。満は座り込んで「なんで日本に来てるんですかぁ~あ、家庭教師でしたっけ」って独り言を呟いてる。その近くまで行って一緒に座り込むと、満が気がついたらしくこっちを向いた。
「あのね、実は沢田君。ボンゴレの血筋で十代目候補らしいよ?」
「十代目候補……?え、え、え…ほ、本当ですか?」
私がゆっくりと頷くと、満は少しだけ動きを止めてから、力を抜くように息を吐いた。どうやら、ずいぶんと落ち着きを戻したみたいだった。
「人って…見かけによりませんね」
「あはは、そうだよね。私も最初はかなり驚いたもの」
学校の屋上で再開した時なんて心臓が跳ね上がる勝手くらい驚いたし。というか、気がついたら仮ファミリーみたいな形になってるなんて言ったら今は不味いかも。私もマフィアなんて嫌いだけど、満と天空もそれに負けず劣らず嫌いだから。
「明日の午前中には、家に行くって事はゆっくり寝てられませんよね。リボーンさんは約束をすっぽかすと後で何するからわかりませんから」
「うん。せっかくの振り替え休日なのに」
「じゃあ、お風呂の準備でもしてきます」
満はすぐに立ち上がると、そのまま部屋から出て行った。もうすっかり最初に部屋に来た時のことなんて忘れてるらしい。リボーンもたまには役に立つときもあるんだって変なところで感心した。それにしても明日はいったい何があるのか凄く気になるから今日は早めに寝ようと思った。