□ 競技 □



初めての体育祭で少し気分が浮ついていたら、なぜか朝から恭弥さんがいつもより早く来たから慌てて家から出た。すぐにバイクの後ろに乗らされて学校に連れて行かれた。

「あの、なんで今日はこんなに早いんですか?」
「見回りするからだよ。草壁から聞いてないの?体育祭の日はいつもよりも厳重に見回りするから朝が早いって」
「え…聞いてないですけど…」
「そう。草壁が言ってるかと思ってたよ」

そういえば草壁さんとは朝は一緒に見回りするけど、それ以外はほとんど会ってないんだっけ…。それよりも恭弥さんと居る時間の方が多いし…。荷物を応接室の一角に置くと、思ったことを話してみた。

「あ、もしかして…恭弥さんが教えてるって思ってるんじゃないですか?だって草壁さんって朝しか会わないですし…」
「そうなるね。・・・別に遅刻したってわけじゃないからいいけど。そういえばは何の競技に出るの?」
「えっと、借り物競争です。なんだか楽しそうだったから立候補したんですけど…」
「そう。がんばりなよ?」
「はい!じゃあ私そろそろ見回りに行ってきますね!」

応援してくれたことが嬉しくて、そのまま元気に勢いよく見回りに向かった。見回りって言っても学校中をくまなく歩いているだけで、たまに同じ風紀委員の人に会うとなぜか頭を直角に下ろして挨拶してくる。あの挨拶は風紀委員伝統の挨拶なのかなってたまに思うことがあるけど、あまり気にしないことにした。

「あ、ちゃ~ん!」
「京子ちゃん?」
「あれ?ちゃんはなんで体操服着てないの?」
「これは…なんかね、風紀委員で見回りすることになってるから制服で来いって言われてて…あ、でもちゃんと競技には着替えてから出るから大丈夫だよ?」
「そうなんだ…あ、そうだった!あのね、そろそろ借り物競争始まるから急いだ方がいいよ!」
「え、もうそんな時間なの!?ごめん、ちょっと行って来るね!」

腕にしてあった時計を見るともう結構な時間が経っていて、慌てて着替えを取りに応接室に向かった。息を整えてから扉を叩いくと中から返事が聞こえてきたから入った。

「そろそろ時間ですから行きますね!あ、そういえばどこで着替えたらいいんですか?教室は閉まってるし…」
「別にここで着替えてもいいよ?」

なんだか楽しそうに話している恭弥さんの一言で一瞬、頭が完全に止まった。ふと、目の前に居る恭弥さんを見ると目があった。えっと、恭弥さんが居るのに着替えろと…?

「え、ええ!?ちょ、何言ってるんですか?!」
「冗談だよ」
「わ、笑えない冗談は止めてください!」

動揺し過ぎたせいか声が変な風に上がった挙句に発音がおかしくなってる私を見て、声を潜めるように笑っていた恭弥さんは持っていた書類を置くと立ち上がった。

「じゃあ、ちょっと見回りにいって来るよ」
「え…あ、はい。あ、ちょっと待ってください!」

慌てて今日持ってきた荷物からランチパックが入った紙袋を取り出した。今日は満達が来るから一緒にお昼はできないし、でもなんだか後で期限を損ねるのは嫌だしで、結局持ってきたお昼の弁当を恭弥さんの前に出した。

「あの、これ…お昼にって作ってきたサンドイッチですけど・・・」
「お昼って…一緒じゃないの?」
「今日は満達も来るって言ってたから一緒は無理かなって思ったんです…それで、せめてお弁当だけでもって簡単なものを作ってきたんですけど・・・」
「そう、なら貰っておくよ。それで達ってことは満って子以外も来るの?」
「はい、一応ですけど天空(そら)も来るらしいです」
「…それ、猫だったよね…」
「あ、あはは…たぶん、猫かも」

実は私もあまり詳しく知らないんです、とは言いにくくて笑って誤魔化した。満にもう少し詳しく聞いとけばよかったかも…。

「ま、いいけど…じゃあ、僕は行くよ。」

恭弥さんが立ち去った後に競技のことを思い出して慌てて着替えた。なんとか間に合うかなと思いつつさっさと着替えて駆け足で廊下を走ると階段はほとんど飛ぶように下りてグランドへと走ってなんとか間に合った。急いで並ぶとすぐに競技が始まって、あっという間に自分の番まで来た。それからはクラスの応援を受けながら網とか平均台とかを独走状態でクリアしていくと、道の所に紙があってそれを拾って中身を見ると"珍しい物を持った人"と書かれていた。珍しい物珍しい物と考えていたらこれって一般的に考えてだよね?じゃあ…ダイナマイトとか銃とか?そういえばトンファーも珍しい物のうちかなって思って上を見てたら、屋上の方に恭弥さんが見えた。これは丁度いいかもって思って手招きして見たら着てくれた。

「何?」
「借り物競争中なんですけど…おねがいです、ついてきてください!」

急いで手を握るとそのままゴールに向かって走っていった。なぜか周りが凄い引いてたような気がする。しかも、一部から悲鳴らしきものも聞こえるし…でもそんなことよりもさっさとゴールしないとって思って急いでゴールのところに居た審判の人のところに行った。

「あの、紙に'珍しい物を持ってる人'って書いてたからトンファーを持ってる人を連れてきました」
「何?何か言いたいことでもあるの君?」
「い、いえ!あ、はっはい!OKですっ」
「ありがとうございます!恭弥さんもありがとうございます!」

嬉しくて顔が緩んでるのもかまわずに恭弥さんの方に向かってお礼を言ってると「棒倒しの結果についてお昼休憩をはさみ審議します。各チームの三年生代表は本部まで来てください」という放送が流れてきた。そういえばさっきから周りがざわついていたけど、たぶんみんな恭弥さんに遠慮して話してたのかな。あれ、なんか沢田って名前が聞こえるけど…。

「まさか沢田くん…?」
「沢田?ああ、同じクラスの沢田綱吉か…」
「私、ちょっと様子を見てきます!」
「ちょっと待ってよ」

行こうとした瞬間、腕を引っ張られた。不思議に思って見ると、なんだか不機嫌そうな恭弥さんがじーっとこっちを見てた。掴んだ腕が少しだけ痛かったけど気になるようなものじゃなかった。

「ねえ、前から気になってたんだけど…は沢田たちとよく一緒に居るよね、でも普通女子は女子同士で一緒にいるものじゃないの?」
「え…それは、友達だからです、けど…」
「ふうん…そう」
「な、なんですかいったい…私、もう行きますから」
「ねえ、。なんであれ、付き合ってることには変わりないからそれを忘れないでよ」
「え?わかってますけど…」

いったい何が言いたいのかいまいち解らなかったけど、恭弥さんは「ならいいよ」って言ってどこかに行った。少しだけ気がかりだったけど、今はそれよりも沢田くんたちの方が気になってたからそっちの方に向かって軽く走っていった。

「沢田くん!大丈夫?なんだか周りが沢田くんの名前をぶつぶつ言ってるんだけど…」
さん!それがリボーンがまたやらかしたんだよ!なんか敵の総大将をつぶしてるみたいなんだ、俺の名前で!」
「そ、それは……可哀相に。ごめんね、私じゃちょっと手が出せないわ」
「そうだよね……ごめんね、さん」

きっとリボーン風に鍛えてるつもりなんだけど、でもかなり過激な気が……。だからと言って助けることもできないから困って思わず引きつった笑みで笑うと、不幸一色の色を背負った沢田くんが歩いてどこかに行った。そのすぐ後に、聞き覚えのある少し幼げな雰囲気の声が後ろから響いた。

さま~!ここにいらしたんですね!さっそくご飯にしましょう!」
「満!…って、天空も着ちゃってるの?!」
「何?オレが着たら悪いのか?」
「そんなことないけど……その格好は久しぶりだよね」

天空が、いつもなら猫の姿なのに今日に限って人型の形を取っていて驚いた。けれどそれりよもこんなところをクラスの女子に見られたらなんて言われるかという感じの焦りが出てきた。青みがかった黒髪に、新緑を思わせる緑色の瞳がとても印象的で、たぶん一般的にはかなりの美形に入ると思う。だから変な噂でも出てきたら後が大変じゃない……ただでさえ女子ってこういうことに面白がって食いついてくることがあるのに。気が重くなってきて思わずため息をしていると、それを吹き飛ばすかのように満が話しかけてきた。

さま!さっきの借り物競争よかったですよ!バッチリビデオカメラで取りました!もうこれは記念物ですね、メモリアルですよ!!それにあれって雲雀さんじゃないですか?なんかどっかで見覚えあるなぁって思ってたんですけど、さっき思い出したんですよ、あはは!」
「なんだか、いつもの三割増しで元気だよね……」
「はい!さまの初、体育祭ですよ!もう私なんて昨日から待ち遠しくて夜も寝れなかったんですよ!でも、不眠のおかげで変な風にテンションが上がってきました!」
「そ、そう……」

満の勢いが凄いせいで思わず後ずさってしまったけど、満は全然気がついてないらしい。満の横に居る天空がなんだ疲れたようにため息をしていた。きっと学校に来るまで大変だったんだ……だってこのテンションの満はとてもじゃないけど手が付けられないし。困っていると、聞き覚えるある声で名前を呼ばれた気がしたから振り返った。

「やっぱりちゃんじゃないですか!あ、覚えてます?」
「え……もしかしてハルちゃん……?」

うなだれた感じでこっちの方を見てたけど、名前を言ったとたんに凄い笑顔になって、なんとなく子犬を思い出して笑みが漏れた。確か前に一緒に沢田くんの課題のお手伝いをしたからよく覚えてる。あの時、数時間くらい問題で悩んでた子だったっけ……。

「覚えていてよかったです!あ、ハルはツナさんの応援に着たんですよ。ここであったのも何かの縁ですから、一緒にみんなでお昼にしませんか?」
「え、でも私……満たちが居るから…」
「あ、私たちなら大丈夫ですよ!せっかくのお友達の誘いなんですからぜひともご一緒させてもらいましょう!」
「よかったです!じゃあ、こっちの方に居ますから行きましょう!」

本当に歌でも歌いそうなくらい楽しそうなハルちゃんに腕を引っ張られて、そのまま沢田くんたちが居る場所まで連れて行かれた。もちろん、満たちもお弁当を持って私の後についてくるような感じついて着ていた。