□ 賞品 □



沢田くんの居る場所に行ってみると知っている顔ぶればかりがいて驚いたけど、ずっと立ってるわけにもいかないから沢田くんお母さんに挨拶を軽くしてから座ろうと思ってお母さんらしき人物の近くに行ってみると、なんとなく見覚えのある人だったけど思い出せなかった。そうこうしてるうちに向こうが気がついたらしくこっちを見て驚いたように少し目を見張った。

「あら、あなた前に迷子になったランボくんを助けてくれた子じゃないかしら?」
「あ、ああ!あの時の人ですよね!」
「あの時はご親切にどうも」
「いえ、それにしても沢田くんお母さんなんて驚きました……」
「そうよね、偶然て凄いわ。あ、ツナなら向こうに居るからよかったら行ってあげてね」

本当に優しそうなお母さんって感じのゆっくりとした話し方がなんだかとても好感が持てた。一度だけ軽く頭を下げると沢田くんに挨拶をしようと思って沢田くんのところに向かった。

「あれ、さん……?なんでここに?」
「ハルちゃんに一緒にご飯食べようって誘われて……ごめんね、急にお邪魔しちゃって……」
「ううん、いいよ。ほら、人数が多い方が美味しいしさ」
「そうだぞ、気にするな」
「あっ、発見!ランボさんと一緒のところにすわるもんね!」

名前を呼ばれたから振り向いて見たら牛柄の服を着た小さな子供がこっちの方に向かって飛び込んできた。思わず受け取ろうとしたところをすぐ近くに居た天空(そら)に取られた。「何、この子牛?」って変なものを見るような目で見ている天空に「その子知り合いなの、放してあげて」というといきなり手を離した。地面に落とされたランボに慌てて近寄ると「ランボさんは強い子ランボさんは強い子」って独り言のように話していた。「ごめんね、ランボくん」と言いながら頭を撫でるとすぐに機嫌を直したらしく、ガハハと笑いながら走り回っていた。

「え、さんってもしてかしてランボと知り合いなの!?」
「知り合いというか……前に迷子になってた子だったから……まさか沢田くんの弟さんとは……」
「いや!弟じゃないよ!リボーンの知り合いでうちに居候してるってだけだから!」
「そうなの?てっきり弟さんかと思ったのに……でもリボーンの知り合いって珍しいね」
「ランボさんはリボーンを殺ちにきたのだ!ガハハ!死ね、リボーン!」

話についていけずに何言ってるのかなこの子、殺しって……小さい子が言うには物騒な言葉だったから注意しようと思った瞬間。ランボくんが頭に手を突っ込み手榴弾のような物をリボーンに向かって投げた。おもちゃでも投げたのかなって思ってたら、リボーンがその手榴弾らしきものをお箸ではじいた。はじかれた手榴弾らしきものは高く飛んでいくと空中で爆発した。

「え……ねえ、爆発したってことは……本物!?!?」
「こらっランボ!そんな物騒なもの出すなよっ!」
「ランボさん知らないもんね~」
「な、な、なんで手榴弾なんてもの持ってるの!?まだこんなに小さいのに……」
「えっと、それは……」
「あれはボスがくれたんだもんね」
「ボスって……?」
「ランボさんはボヴィーノファミリーのヒットマンだからボスがくれたのよ~」

ヒットマンって……一瞬絶句したというか言葉が出なかった。こんなに小さいのにマフィアなんて入ってるんだ……ああ、でも世襲制かもしれないし。そう思って考えにふけっていたせいで周りの状況に気がつかなかった。沢田くんの息を飲み込む音とか周りのざわめきとかがあったことに。そして不意に後ろからよく聞き知った声が響いた。

「爆発音がしたから着てみたんだけど……。、こんな場所で何してるの?」
「は、はい?!って、恭弥さんっ……いきなり驚かさないでください。たまたま歩いてたらハルちゃんにご飯ご一緒にしましょうって誘われたんです」
「ふうん……で、さっきの爆発はいったい何?」
「えっと、あれは……子供の悪戯みたいなものです。何もないから大丈夫ですよ?」

がんばって笑顔を作りながら言ったけど、すごい引きつってるのが自分でもわかってどうしようって思ってたら、恭弥さんが「ふうん……そう」って納得してくれたみたいだからちょっと安心した。でもよく見てみると恭弥さんの視線がさっきから私の横にあるような感じがして思い出した。そういえば天空が横に居たっけ。慌てて横を見ると天空が恭弥さんを睨んでた。

「ねえ、さっきから僕のこと睨んでるみたいだけど咬み殺されたいの?」
「別に……」

なんだか一触即発の雰囲気に、さすがにこれは止めないとって思って無理やり入り込むように一歩だけ前に進んで入り込んだ。それでも空気が変わりそうになかったけど、そのまま気にせずに口を開いた。

「ご、ごめんなさい恭弥さん。ちょっと人見知りが激しいだけなんです!えっと……私の従兄弟?の天空って言うんです」
「なんだか凄く不自然な感じの言い方に聞こえるんだけど……」

実際には満と同じく血が繋がってなくて従兄弟でもなんでもないけど、その場の雰囲気をなんとかするために咄嗟に出た言葉だった。でもそのことに納得してなさそうな天空が反論しようとしたから足を思いっきり踏みつけて黙らした。よっぽど痛かったのかわからないけど声には出さずにその場で天空は固まった。

「そ、そんなことないですよ!あ、ほら早くしないとお昼ご飯が食べれなくなっちゃいますよ?」
「そういえばそうだね。じゃあ、これ返すよ」

恭弥さんが出してきたのは少し前に私が渡した紙袋で、受け取って見ると随分と軽くなってた。渡してからはそんなに経ってないと思うんだけど……もしかして渡してからすぐに食べたんじゃないかなって思ったけど言わないことにした。

「もしかしてもう食べたんですか?」
「丁度お腹が空いてたからね、今度また作ってよ」

もしかして気に入ったのかなって思った時に、少し離れたところからリボーンの声で「A組みの総大将が今度は今度は毒盛ったぞ」ってマイクで言ってたの聞こえてきた。沢田くんが大きな声で「おいコラー!!!」ってリボーンに向かって叫んでたけど、もう沢田くんが可哀相にしか見えなかった。周りをふと見てみたらなんだかビアンキの周りに沢山、虫の息の人たちが転がってる。しかも周りが凄い沢田くんを睨んでるし。慌ててリボーンの所に行った。

「リ、リボーンさすがにそれは……やりすぎなんじゃない?なんだか沢田くんが可哀相で……」
「そんなことはねぇぞ。これも修行だ」
「やあ、赤ん坊」

どうも一緒についてきていたヒバリが、なんだか嬉しそうにリボーンに話しかけた。その時に心なしかリボーンの目が光った気がしたけど、きっと気のせいよね。

「ちゃおっす。そうだ、おめぇも棒倒しに参加してみるか?」
「棒倒し?興味ないよ」
「そうか、でねぇのか……せっかくが見てるっていうにな」
「……なんでそこでが出るの?」
「ん、知らねぇのか?ツナ達の応援するらしいぞ」

心なしか恭弥さんが不機嫌な感じでこっちを見ると「そうなの?」って聞いてきたから、「そうですけど」って返事を返した。同じクラスで、しかもお友達なんだから応援するのが普通なんだと思ってるんだけど……なぜか恭弥さんの視線が突き刺さる感じがする。

「ふぅん。なら、僕が出たら僕の応援してくれるの?」
「し、しますけど……」

ま、まさか出るつもりなんじゃあ……これで恭弥さんが出たら沢田くんがますます可哀相に見えてくるから止めようと思ったとき、放送でA組み対B・C組み連合チームになるって感じの内容が流れてきた。放送が終わったときには男子が一斉に喜んでグランドへと歩いていった。その少し後に恭弥さんがグランドに向かって歩いていく。え、まさかとか思ってたら本当に恭弥さんはB・C連合の総大将になってた。

ちゃん!一緒にツナさんの応援しましょうよ!」
「ツナくんたちもがんばってるみたいだから応援しよう?」
「え、ハルちゃんと京子ちゃん……」

返事をする前にハルちゃんに腕を掴まれてグランドを区切ってるロープぎりぎりのところまで連れて行かれた。ハルちゃんと京子ちゃんが、がんばって応援してるのに応援しないってわけにも行かないから、とりあえず「二人ともがんばって!」って応援することに。でも目の前に広がってるA組みの人数の少なさととB・C組の人数の多さを見てると沢田くんがやっぱり可哀相に見える。試合が始まると同時に沢田くんがボロボロにされてたけど、銃声の音と共に沢田くんが一気に活気付いた。なぜか山本くんと獄寺と京子ちゃんのお兄ちゃんが三人で沢田くんを担いで走り始めた。これで少しは勝てる望みが出たんだけど、沢田くんが転んであっけなく負けた。一瞬、静まりかえったけど間をおいて乱戦が始まった。これは止めに入った方がいいのかなって思ってたら向こうの方から恭弥さんがやってきた。

「えっと、おめでとうございます」
「うん。とりあえず受け取っておくよ。それにしても彼には呆れるよね」
「あ、あはは……」
「喉が渇いたから応接室に帰るよ、

もしかしてついて来いってことかなって悩んでたら「何してるの、はお茶組係でしょ?」って言われて、慌てて後を付いていった。生徒がほとんど居ない静かな校内を歩いて応接室に着くと恭弥さんはすぐにイスに座った。私もいつもの通りにお茶を淹れたんだけど今日は珍しく自分の分も淹れてみた。お茶をテーブルの上に置くと本当に喉が渇いていたのか恭弥さんは、いつもの通りの流れるようなしぐさでお茶を飲んだ。私もソファに腰掛けてお茶を一口飲んだ。

「ねえ、……」
「どうしたんですか?」

恭弥さんは立ち上がってゆっくりとこっちの方に来ると、なぜか私の横に座った。急に隣に座りこんできたから思わず体が引いてしまった。でも逃さないと言わんばかりに恭弥さんが肩に手を回してきた。いつもとちょっと違う何かにどうしようって思ってたら頭が真っ白になってきた。

「さっきの棒倒しだけど……一応、勝ったよね?」
「……そうですね、ちゃんと勝ってますけど?」
「なら、賞品をもらうね」
「賞品って……私、そんなの用意してませんよ?」
「いいよ、僕が勝手に貰うから」

いったい何を言ってるのか解らなくて、聞こうと思った瞬間に頭を後ろから押された。えっと思った時には目の前に恭弥さんの顔があって、唇には暖かくて柔らかい感触があった。何をされてるのか一瞬わからなかったけど、理解した瞬間に驚いて声を出そうと口を開きかけたら生暖かい何かが進入してきた。それは口内を無遠慮に荒らしてきたから後ろに下がって離れようとした。けど、頭がしっかりと掴まれていて無理だったから今度は胸を叩いて訴えた。だんだんと息が続かなくなり苦しくなって、胸を何度か叩いているとやっと離しててくれた。息をゆっくりと吸って、何度か深呼吸した後に涙で視界が潤んだけど気にせずに恭弥さんの方を向いた。

「な、な、なにするんですか!?」
「何って……賞品を貰ったんだけど?」
「きょ、恭弥さんのバカぁー!!」

思いっきり叫ぶと、応接室の扉を乱暴に開いて駆け出していった。走ってる最中に視界が滲んできたから乱暴に手の甲で拭き取った。グランドには人がまだ沢山居て、涙目でなんてとても行けそうになかったからとりあえず屋上に向かった。人目のなさそうな日陰に体育座りで座り込む。初めてだったのに……それが賞品あつかいになるなんて。いくらなんでも初めてが賞品になるってのはちょっと嫌だった。せめて普通に平凡にステップを踏んでからいきたかったのに……いきたいって自分でなに言ってるのかなぁ。でも、よくよく考えて見たらあれは初めてってレベルを超えてる気がする。なんだか色々と頭の中をめぐって混乱してきた。ふと、恭弥さんの体温を思い出した。なぜか心臓がバクバクいってて顔が熱くなってくる。変なのって思って上を見上げると空がとても綺麗で、風が心地よかった。