□ おにぎり □



応接室の扉の前で深呼吸していると中から「でしょ。入りなよ」っていう声が聞こえたから扉を開けて入ると、なぜか応接室の机に腕を組んで座っている恭弥さんがいた。

「あの、どうして私ってわかったんですか?」
「…まあ、なんとなくね」
「はぁ…なんとなくでわかるもんなんですね」
「それより、その手に持ってるものって何?」

恭弥さんが指差す方向を見て見るとおにぎりがあった。そういえばこれを渡しに着たんだっけと思い出した。そのおにぎりを少しだけ差し出すように前に出した。

「さっき調理実習で作ったんですけど…私のクラスで男子に配るっていうイベントがあるから、恭弥さんにあげようかなって思って持ってきたんですけど…おひとついります?」
「いいよ。もらってあげる」
「はい。もらってください」

恭弥さんのところまで持って行くと、真ん中のを一つ綺麗なしぐさでつまむとそのまま食べてくれた。最後の一口まで食べ終わるのをじっと見てたら睨まれた。

。じっと見ないでくれる?」
「え…あ、ごめんなさい」

よく考えたら誰だって食べてるところをじーっと見られたらいい気がしないかもって思った。ちょっと不躾すぎたかなって反省して視線を逸らして見た。

「うん。味はまあまあかな」
「それって…美味しかったってことですか?」
「まあ、初めてにしてはね」
「あ、ありがとうございます!私、お茶入れてきますね!」

なんだか恭弥さんに褒めてもらえたってだけで凄く嬉しくて顔がにやける。にやける顔を抑えるのが精一杯で、さっさとお茶を汲んで顔を冷やそうっとっと思った時、後ろから腕を捕まれた。

「ちょっと、その残りのおにぎりどうするの?」
「え…これは沢田くん達にも配ろうかなって…」
「なに、僕以外にもあげるつもりなの?」

凄く不機嫌な感じがするんですけど…もしかしてあげるのはまずかったかな。でも友達にあげるわけだから別にいいような気がする。結局、素直に答えることにした。

「そうですけど…でも友達ですよ?」
「ふぅん…男?」
「性別的にはそうですけど…」
「ならダメだね。だいたい君は無自覚すぎだよね…期待だけ持たせるのも残酷なものだってことわかってる?ああ、わかっててしてたら確信犯だね」

言いながら立ち上がって私が手に持っていたおにぎりを取り上げると、私の静止を無視してそのまま自分の机に戻っていった。それにしてもさっきの言ってた意味がいまいちわからない。

「あの、期待とか無自覚ってなんのことですか…?」
「君ってほんとうに……。もういいよ、いっそうのことそのままの方が僕が安心だしね」

私の方を見ながら軽くため息をつくのを見てたら、ふとこれってわりと失礼なこと言われてるんじゃあとか思ったけど、気のせいかなで終わった。たまたま目線が恭弥さんとあったら「お茶汲むんじゃなかったの?」って言われて慌ててお茶を汲みに走った。

「お茶、どうぞ。少し熱いですから気をつけてくださいね」
「うん、そこに置いてて。それとこれ」

書類に目を通しつつ、さっきまでおにぎりがのっかっていたお皿を私のほうに渡した。もうすることもないしそろそろ教室に戻らないとお昼休みが終わる。恭弥さんの方を見ると「そろそろ教室に帰りますね。じゃあ、また放課後」と言うと「うん、放課後ね」と目線を書類から話さずに返事を返してきた。教室へと向かって歩いていると曲がり角あたりで誰かとぶつかった。

「ごめんなさいね。あら、またあなたなのね」
「え…あれ、…確か…ビアンキさん…?」
「よく会うわね。わたし、そろそろ帰るからそれじゃあね」

返事もそこそこにさっさと立ち去るビアンキを見送ると教室へと戻っていく。教室に入って見るとそこは沢田くんのせいで凄い騒ぎになってた。というか、なんで人のおにぎりを取って食べまくってるの沢田くん。これは止めた方がいいよね。まだ無事だった花ちゃんのおにぎりを貰うとそれを囮に出入り口のそばに立った。

「まだたりねーー!!」
「沢田くん、おにぎりはここにもあるよ?」

おにぎりをちらつかせると、沢田くんは叫びながらこっちの方に突進してきた。少し教室から離れるように走って距離をとってからおにぎりを投げると、沢田くんはそのおにぎりに向かって飛びついていく。その背後、とくに首あたりに向かって思いっきり手套を入れると、沢田くんはおにぎりを加えて気絶した。

「ごめんね、沢田くん…私、風紀委員だから放っておくと後で恭弥さんに怒らると思うの」

気絶してる沢田くんに謝っていると、獄寺くんたちの声が聞こえてきた。あ、これなんて説明しようかな。さすがに極寺くんに正直に言ったら怒るかな…適当に言っておこうっと。

「おいっ!十代目はどうしちまったんだ!なんで気絶してるんだよ!」
「そのぉ…たぶん、はしゃぎ疲れたんじゃない?あ、ほら早く保健室に運んであげないと!ほら、早く!」
「そうだぜ、獄寺。このまま寝かせておくわけにもいかねぇだろ?」
「ケっ、おめぇに言われねぇでもわかってるぜ」

二人とも喧嘩しながらも沢田くんを保健室へと運んでいくのを付き添いって形で一緒についていった。ほら、友達として心配だしね。しかも私が気絶させたからついて行くのは当然のような気がした。保健室に着くとなぜか喧嘩しながらも二人で沢田くんに布団をかぶせた。これでやっと一段落ついたかなって思って手元を見るとさっき花ちゃんから貰ってきたおにぎりがあった。

「そうそう…よかったら二人ともこのおにぎり食べる?」

二人におにぎりを差し出すと、なんだかものすごく嬉しそうに見える。獄寺くんは思いっきり顔を横にしてるけど…顔が赤いし。山本くんは笑顔全快で笑ってる。そっか、二人ともそんなにおにぎりが食べたかったんだ…でも沢田くんが独り占めしたようなものだからきっとおにぎりが食べれて嬉しいんだって思った。

「けっ…しかたねぇから貰ってやるよ」
「あはは、悪いな。

二人同時におにぎりを取っていくのを見てると、そういえば喧嘩するほど仲が良いって昔聞いたことがあったっけと思い出した。きっとこの二人みたいなのを言うのかなって思った。

「ううん、お礼なら花ちゃんに言ってあげて。これ花ちゃんから貰ったものだから」

なぜか二人の動きがぴったりと止まった。しかもさっきまでの笑顔もぴたりと止まってる。そのままこっちの方を向くからなんだか凄く怖かった。

「ってことは……おめぇのじゃねぇのか?」
「うん。私のは恭弥さんが食べちゃったから」
「そっか。雲雀のやつがか…」

二人そろって黙って俯くから凄く暗い。まわりにどんよりとした雰囲気が溢れるように出ている感じの黒さを回りに振りまいていてものすごく暗い。その場の空気に負けそうなになった時、予鈴の音が聞こえてきたから早く行かないと授業が始まるからって二人を無理やりな形で教室へと運んだ。結局、初めての調理実習はほとんど恭弥さんに食べられて終わった気がする。