□ 友達 □
チャイムが鳴って授業が終わると、次の授業が家庭科で移動教室らしくて女子達はみんな立ち上がって教室を出て行く。その中で私だけが出遅れてしまった。えっと調理室ってどこだったっけとか思って教室を出て適当に歩いて行こうとしたら入り口のところで女の子が二人で立ってた。どことなく覚えてる…そういえば沢田くんが好きな女の子だったっけ…確か名前が…笹川京子。
「えっと、笹川さん…?」
「あの、さんって転校してきたばかりでしょう?だから家庭科室の場所知らないんじゃないかなって思って…」
「簡単に言えば、一緒に調理室に行かないって聞いてるのよ」
「一緒に…?丁度道がわからなくて困ってたの。ありがとう」
お礼を言うと笹川さんは「ううん、気にしないで。早く行こ?」と言ってにっこりと笑った。やっぱり沢田くんが好きになるだけあって相当良い子なのかも。可愛いし良い子だしで沢田君が好きなのもちょっと頷けた。
「えっと、よかったらでいいんだけど…ちゃんって呼んでいいかな?私のことも京子でいいよ」
「うん、いいよ。そっちの方が私も嬉しいし。えっと…」
京子ちゃんの横に居るウェーブのかかった黒髪の女の子のに同じように呼び捨てでいいよと言おうとして声をかけようとしたら名前が浮かんでこなかった。名前なんだったっけ…同じクラスなのは知ってたけど、まさか京子ちゃんの名前を知っててこっちの子の名前を覚えてないなんて言えなくて口ごもると向こうも気づいてくれたらしい。
「花でいいわよ。私もって呼ぶから」
「うん、ありがとう」
それから調理室に着くまでの間は本当にあの先生がどうのこうのとか昨日の特番がどうのこうのとか言う本当に他愛もない話をして歩いていった。なんだか凄くほのぼのとしてる感じがする…きっとこれが普通の学生生活とかいうものなんだって実感をかみしめていたらあっというまに調理室についた。中では先生が先に着いてたらしくてチャイムがなると同時に手を叩いて適当に2,3人ずつのグループを作るように言われた。誰と組んだらいいのかわからずにほけっと一人で立ってたら隣に居た京子ちゃんたちがこっちのほうに来た。
「ちゃん、同じ班でいいかな?私と花を合わせると丁度三人だし…」
「京子ちゃんがよかったらいいよ」
「じゃあ、決まりだねっ」
とっても嬉しそうに頷くと私の手を握って空いているテーブルへと進んでいく。テーブルに着くとほとんどの班はもう出来上がってたらしくて先生がまた手を叩くと各自、材料は用意してあるので目の前の黒板どおりに作ってくださいと言った。
「えっと…材料はこれかな?ご飯と塩とおかかと鮭と昆布」
「うん、これみたい。ちゃんはもしかしておにぎり作るの初めて?」
「うん、そうだけど…でもよく考えて見ると料理ってしたことないかも…」
「そうなんだ…じゃあがんばろうね!」
にっこりと笑顔で言われると私も嬉しくなって笑顔で返したら、なぜか京子ちゃんは固まったように動かなくなった。え、まさか照れてる?でもなんで照れてるかな…京子ちゃんの顔の前で手を振って見るとはっとしてまたごめんねといって笑った。
「どうかしたの?」
「う、ううん。なんでもないけど…あ、そうだ。早く作ろうよ!ちゃんは何のおかず使うの?」
「う~んっと…そうえばこれってできた後って自分達で食べるの?」
「時間がないし、お昼も食べないといけないからたぶん持って帰ると思うけど…そういえば調理実習でできたものは男子達に配るっていう行事があるの」
「つまり…誰かにあげるってこと?」
「うん。そうなるけど…あ、もしかしてあげる人もう決まってるの?」
あげる人って聞いてふと恭弥さんの顔が頭に浮かんできた。そういえば一応でも彼氏ってことだし…あげた方がいいよね。うん、後で上げに行こう。
「うん、恭弥さんにあげようかなって思って……もしかして京子ちゃんも欲しいの?」
「え、あ…私?う~んっと…そうだ。いいこと思いついたの!お友達になった記念として、おにぎり交換しない?」
「お友達……う、うん!なんだか凄く嬉しいっ」
初めての友達。沢田くんたちももちろん友達のつもりだけど…女の子の友達って初めてで凄く嬉しい。京子ちゃんは「おおげさだよ」と言いながら笑ってたけど私にとっては全然おおげさじゃないから「そんなことないよ」と思わず真剣に言い返したらなぜか二人に笑われた。そうして初めてのおにぎり作りを京子ちゃんと花ちゃんとの三人で凄く楽しく進めていった。
「後は…盛り付けて、完成っとっ!…ちょっと多かったかな」
「でも男子達に配る分と私達で交換する分を考えると5、6個ぐらいが丁度いいと思うよ?」
「そうよ。男達ってみんなこれを楽しみにしてるみたいだしね。それを考えると丁度いいと思うわよ」
「そっか」
頷いていると丁度時間が来たらしくて、家庭科の先生が各班のおにぎりをぱっと見ていって手に持っているチェック表に点数らしきものを書いていってすぐに私達の班のところにも来て点数をつけ終わるとまた違う班のを見に行った。後は片付けをして先生の「帰っていいですよ」との声で帰って行った。
帰り道の途中で京子ちゃんと花ちゃんのおにぎりを一つずつ交換して貰うと、ちょっと行儀が悪いかなと思いつつも食べながら教室へと向かった。
「あ…そうだ。あの京子ちゃん」
「なに、ちゃん?」
「あのよかったらでいいんだけど…もしよかったら沢田くんたちにもおにぎりわけてあげて欲しいんだけど…」
「うん、いいよ。でもわたしのでもいいのかな?」
「ううん!京子ちゃんのだったら絶対に喜ぶから!おねがいね!」
「そんな、大げさだよ」
「じゃあ私、応接室に行ってくるね!」
京子ちゃんの後ろのほうで花が微笑んでたのを見て、私のおせっかいな行動がばれてると悟った。でも、そんなこと気にしてもしかたないしさっさと応接室の方へと進んでいった。途中でなんだか目立つ髪色をした美人なお姉さんにばったりと出くわした。相手の方はなぜか私をじっと見てる。
「ああ、あなたがリボーンの言ってた子ね。確か、 だったからしら?」
「え、そうですけど…リボーンちゃんのお知り合いですか?」
もし知り合いだとしたら、ほぼ間違いなくマフィアだろうなぁと思った。というか、リボーンちゃんの知り合いに絶対に一般人は居なさそうだったから。
「そうよ。私はビアンキっていうの。これからよろしくね」
「はい、私のほうこそよろしくお願いします」
これからって…なんだか微妙に含みのある言い方だったけど、それは突っ込んではいけない気がしてあえて聞かないことにした。だってリボーンちゃんのことだもん、きっと自分に都合のよさそうなことだけを言ってそうな感じがする。ふと、なんだかビアンキさんの手に変なものがのっかってることに気がついた。なんだかおにぎりにそっくりなんだけど…色がありえない。なんでお米なのに紫色に?
「あの、それってもしかしておにぎりですか?」
「あら、おにぎり以外何に見えるの?」
「得体の知れない物体」
「そう、食べて見る?」
「いえ、絶対に遠慮します。それよりもそれってどうするんですか?」
私が聞くとビアンキさんは妖しく微笑んだ。なんだか嫌な予感がする、しかも凄く。これは聞かないほうがよかったかもとかいまさらになって思ってきた。
「それは秘密よ。気になるんだったら着いてくる?」
「いえ、私これから行くところがあるんです」
「そう…なら仕方ないわね。じゃあ私は行くけど…そうそう、隼人のことよろしくね」
「隼人って…もしかして獄寺くんのことですか?」
「そうよ。私の弟なの」
「え、そうだったんですか?!」
ビアンキは時計を見ると「時間がないからもう行くわね」とだけ言って私が来た方向へと立ち去っていった。私も自分の自分の時間が残り少ないことに気がついて急いで応接室へと小走りで歩いていった。