□ 自習 □



朝の風紀の仕事も終わっていつもどおりに授業に出ると、担当の先生が休みらしくて自習になった。配られたプリントを一問一問解いていると、横の沢田くんから声がかかってきたから、手を止めてそっちのほうを見る。

「どうかしたの?」
「えっと、あの…昨日雲雀さんから呼び出された後どうなったのかなって思って…大丈夫だった?」
「うん、大丈夫だよ。それと、今度からお昼は一緒にできそうにないからごめんね」
「おい、いきなりどいうことだよ」
「そうだぜ、なんで急に無理になったんだ?」

席が近かったせいなのかわからないけど、沢田くんとの話が聞こえたらしく横から山本くんと極寺くんが入ってきていっき賑やかになった。どうも教室での話しってよく聞かれる感じがする。

「えっとね、私と恭弥さんって付き合ってるんだけど…」
「ああ、そうだったな…」
「うん…それは知ってるけど…」
「え…ってあいつと付き合ってたのか?!」

山本くん、声が大きすぎてうるさいなぁ…。ああ、でも沢田くんと獄寺くんはなんだか、空気がいっきに重くなった気がする…こういう雰囲気ってなんだか話しにくいな。

「そ、それでね…恭弥さんがお昼は二人で食べたいらしくて…」
「けっ…それって結局、雲雀のわがままじゃねぇかよ」
「あ、あはは…でも、付き合ってるなら普通だって恭弥さんが…」

ああ、なんだかまた静まり返ったみたいにしーんっとなってる。なんだかこのネタってあんまり続けない方がいい気がしてきたわ。仕方がないから話題を変えようと思ってネタ探しに周りをチラっと見てみると…プリントがあった。そういえば今って自習中だったっけ。

「そういえば、沢田くんたちってもうプリント終わったの?」
「そうだった!プリントしないと!」
「あはは、俺なんてまだできてないぜ?」
「よければ教えますよ!十代目!」

沢田くんは言われてから気がついたらしく、慌てて自分の席のプリントにとりかかり始めた。その横でがんばって教えてる獄寺くんとなぜか横から山本くんも入っていってプリントに取り組んでいるのをみると、やっぱりこの三人って仲がいいなぁ~って思った。

「本当に三人とも仲がいいよね」
「は?何言ってんだ?十代目はともかく…こいつとはぜーってぇありえねぇぜ」
「そう?だってけんかするほど仲がいいっていうじゃない。ね、沢田くん」
「なんで俺にふるのー!?」
「なんとなく?…一番無難だし」
「あはは、相変わらずおもしれぇな。は」
「なんだかわからないけど、ありがとう」

ふと時計を見ると時間が残り半分くらいになってた。急がないとプリントが終わらないから慌ててシャーペンを握りなおして、また一問ずつ書いていく。プリントの残りが4分の一くらいになった時に隣を見てると沢田くんたちと目が合った。

「え、もしかしてさんって頭がすごくいいとか?」
「そんなことはないと思うけど…急にどうしたの?」
「ほら、問題をスラスラと書いてるから、もしかしてかなりの頭がいいのかなって」
「え…あ、ああ。満(みちる)が…あ、満っていうのはお世話がかりみたいな人?その人が覚えてた方が色々と便利ですからとか言って色々と勉強を教えてくれるの。それでほとんど覚えちゃってるから…」
「どっちにしろ頭がいいってことじゃん?!」
「そんなことないって。普通に覚えてればいいだけのことだもの」

不思議なことに沢田くんがため息をはいた。なんだか凄く失礼な気がするけど、気にせずにまたプリントに取り組んでいくとプリントが終わった。おわった~と言いつつ背伸びをして息を吐くと隣でプリントしてた沢田くんが驚いた。

「早っ!凄い早いよっ」
「え…そう?あ、よかったら写す?」

出来上がったプリントをチラチラと見せると沢田くんが考え込んでたみたいだけど、すぐに困ったような笑い顔になる。

「ありがとう。でも俺、こういうのは自分の力でした方がいいと思うんだ。リボーンに見つかったら後が怖いし」
「あはは、そうだよね。自分のためにならないよね…リボーンも本当に怖そうだしね」
「大丈夫ですよ、十代目!俺がちゃんと教えますから!」
「よかったね、ちゃんと極寺くんが教えてくれるみたい」
「ありがとー!獄寺くん!」

沢田くんはお礼をいうとすぐにプリントに取り組んでいった。山本くんの方を見るとちゃんと教科書を使いながらでも一人でしててちょっとだけ感心した。結局、沢田くんたちは授業が終わると同時にプリントを書き上げた。

「やっと終わったよ~…あのさ、ずっと疑問に思ってたんだけど…さん、聞いていい?」
「え、何を?」
「あの…その…雲雀さんのいったいどこを好きになったのかなって…」

………実は告白を断るのが面倒だから付き合ってるってなんて、ここで言うと付き合ってる意味がなくなる気がする。どうしようかなって考えてると「い、言いにくかったらいいよ!変なこと聞いてごめん!」とかいい始めた。本当にどうしよう…そっか、教室じゃなかったらいいんだ。

「えっと…その、ここじゃなんだから移動してもいい?」
「え…う、うん」

そろそろと教室を抜け出ると、なぜか極寺くんと山本くんも着いてきたけど二人ともベラベラと話すタイプじゃないからあんまり深くは気にしないようにして屋上まで進んでいった。そこで誰も居ないのを確認すると三人のほうに向き直った。

「えっとね、実は…カモフラージュみたいなものなの。ほら、私ってすごく告白ばっかり受けてたじゃない?だから風紀を乱してる扱いにされて、迷惑だからってことで恭弥さんと付き合ってることにしたらいいって。それで、恭弥さんにメリットがないから風紀の仕事を手伝えって…」

しどろもどろに話し終わった時、なぜか三人そろって間抜けな顔をしててちょっとだけ面白かった。先に口を開いたのは珍しく沢田くんだった。

「あの雲雀さんが…それって……」
「ってことはよ…別に好きで付き合ってるってことじゃねぇのか?」
「そうなる…のかなぁ?」

確かに、最初から好きってわけでもないし、気がついたら無言の了解みたいな感じになってたというか…一方的にというか…成り行き?一人で考え込んでると後ろのほうから山本がなんだか凄く機嫌よさそうに口を開いた。

「そっか…ならチャンスはあるよな」
「ばっ…まさかおめぇも…!」
「ま、そういうことだぜ。獄寺」

え、あれ…付き合ってることには変わりないんだけど…でも話しても無駄そうな雰囲気があったからそのまま黙っといた。もしかしてばらさない方がよかったかもとか思ったけど後の祭りだったらしくて二人で張り合い始めてる。なんだか止めるのが大変そうだったからそのままにして逃げようかなって思った時にチャイムがなったから沢田くんを連れて教室に帰った。