□ 心音 □



放課後になってからは、応接室に行かないと行けないなって思うのに体が鉛になったように動きにくい。ゆっくりとカバンに教科書を詰め込んでいると京子ちゃんが声をかけてきた。

ちゃん。よかったら一緒に帰ろうよ」
「ごめんね、これから風紀委員があるの」
「そっかー。委員会ならしかたないよね…」
「ほんとうにごめんね」
「ううん、今度一緒に帰ろうね?」
「うん!じゃあまたね、バイバイ」

カバンを持って教室から出て応接室に向かう途中に校舎の外で人らしきものが転がっているのに気がついた。近寄って見るとちゃんとした人で、しかも見覚えがある。確か…緑化委員会の人たち?
ふと、視線を感じて上のほうを見ると窓側に寄り添って座っている人物が居た。恭弥さん…?ということはこの人たちってやっぱり…。とりあえず、無事かどうかちゃんと確かめようと思ったら遠くの方から救急車の音が聞こえてきた。音がどんどんと近づいてくるからもしかしてと思ったらすぐにこっちに救急車が来た。きっと恭弥さんだ。相変わらず容易だけはいいなぁって思いつつ事情確認がめんどくさそうなのでその場から離れた。
応接室の前まで来て、扉を叩いて見たけど返事がない…それどころかなんか暴れてるような感じの音が中から響いてるんですけど…これって入った方がいいのかなって悩んだけど、迷っててもしかないから扉を開けてみる。

「あの…失礼します…って、沢田くん?!」
「タワケがぁ!!!」

入った瞬間に目に飛び込んできたのは、沢田くんがスリッパで恭弥さんの頭を叩いている光景でした。これには動くのを忘れるくらい驚いたけど、すぐにヤバイって思った。だって、恭弥さんから物凄く殺気が出てて…。

「ねぇ……殺していい?」

うわ、あれは絶対に怒ってる。物凄く怒ってる…本当にヤバイくらいに。どうしよう、がんばって止めた方がいいよね?そう思って一歩、踏み出したとたんになんだか凄く聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「そこまでだ」
「リボーン…?」
「ちゃおっス」
「なんでここに居るの?」
「ちょっと野暮ようでな」

きっとまた、ろくでもないことをたくらんでたんだ…。沢田くんも大変だなぁとか思ってたら、恭弥さんが不機嫌そうにリボーンに近づいていった。

「ふぅん…君、の知り合い?」
「そうだ。おめぇ、やっぱつえーな」
「そう。僕、今イラついてるんだ……横になって待っててくれる」

言うと同時に攻撃を繰り出しているけど、リボーンはすぐにそれを受け流した。恭弥さんは驚いていたみたいだけど、やっぱりリボーンだなぁって思った。

「ワオ。素晴らしいね、君」
「そろそろお開きだぞ」

ふと、リボーンの手元を見たら爆弾を持っていた。え、爆弾?!ちょ、なんて物持ってるの?!って思ってるうちに爆弾が光りだした。ここは扉を閉めて防ごうって思ったけど、でも恭弥さんが居るしって思ってる間に爆発した。

「けほっ…け、煙が、目に沁みて…っ」

爆発で起きた煙が目に沁みて痛かったけど、衝撃はほとんど無い…。おかしいなって思ってそっと目を開けてみると、目の前に天井らしきものが見えた。それと、恭弥さんの顔が見える。どうも、抱き上げられているらしい。そのまま運ばれて、応接室から出るとおろしてくれた。えっと、もしかしてかばってくれたのかな?

「あの、ありがとうございます」
「別にいいよ。これくらい」

恭弥さんはポケットから携帯を取り出すとどこかに電話をかけた。相手はすぐにでたらしく話している。どうも草壁さんに後片付けをするようにと言ってすぐに電話を切ると、こっちの方を向いた。

「それで、は僕に言うことはないの?」
「え、えっと…この間はごめんなさい…勝手に休んじゃったりして…」
「そう、それでなんで休んだの?」

どうしよう、なんか探るようにこっちを見てる。この状況って凄く辛いんだけど…さすがに、恭弥さんを見てるとなんか自分がおかしいんですってとてもじゃないけど言えない。どうしよう…悩んでると、風紀委員の人たちが来てすぐに部屋の掃除に取り掛かりはじめた。

「ねえ、早く答えてよ」
「あの、き…昨日は熱を出してしまって…」
「その前だよ。朝は居たけど放課後は来なかったよね?でもボクシング部には顔を出してた。どういうこと?」

完全にこの間の放課後さぼったことを言いたいんだ。でもやっぱり言えないから黙ってると恭弥さんが近づいてきた。思わず後ろに一歩下がろうとしたら手首を掴まれて引っ張られた。いきなりだったからバランスが一蹴くずれたところを引っ張られて気がついたら抱きしめられていて身動きが取れない。ワイシャツが薄いせいか体温が伝わってくる。心臓がドクンドクンと五月蝿いくらいに音を立ててるのがばれないのか凄く心配になってきた。

「あ、あの…離してほしいんですけど…」
「ダメ。離したら逃げそうだし。まあ、朝のことから考えたらだいたいの想像はつくけどね。…君って鈍いって言われたこと無い?」
「鈍い?あまりないですけど…?」
「ふうん…そう。無自覚の鈍さか…」

少し考えて見るみたいだったけど、こっちの方に気がつくと少し楽しそうに微笑んできた。恭弥さんの微笑ってほとんどないから凄く怖いんだけど…でも目が話せなくて、なんだか頭がくらくらする。顔が少し熱いかも。やっぱり、今日の私って何か変かも。

「あまり気が長くないから早めに気づきなよ?そうしないと多少強引な手段にでるかもしれないから」

強引な手段って何?!って思ったけど、なんだか直感的に尋ねたらいけない気がした…行動に起こされそうな、そんな感じ。黙って頷いてると応接室から草壁さんが出てきた。それを先頭に他の風紀委員たちも出てきた。

「委員長。応接室の掃除が終わりました」
「そう。なら見回りに行ってきて」
「わかりました。失礼します」

風紀委員全員がいっせいに応接室から出て行くのを見ていて、相変わらずごつい集団だなぁって思ったけど口にはださなかった。みんながんばってるのに失礼になるしね。そ、それにしてもこの体勢って改めて考えて見ると相当恥ずかしい。

「あの、応接室も片付いたことですし…そろそろ風紀委員の仕事しません?」
「そうだね。じゃあ昨日の分も手伝っていってよ、

ああ、やっぱりしっかりと手伝わせるんだよね。いつもの通り自分の席に向かって進んでいく恭弥さんの後を付いている最中にふと恭弥さんらしいと言えばらしいかもって思ったらなんだか笑みが零れた。署名する書類を受け取っていつもの通りに席に座ると、なんだかいつもの自分の調子が戻ってきた感じがした。