□ 少女 □
いつも通り応接室で書類の整理をしていると、暇そうに外を見ていた恭弥さんが窓から視線を逸らさずに声をかけてきた。思わず同じ方向を見てみると、小さな女の子がグランドを歩いて校舎に向かって歩いていた。
「子供ですよね……」
「うん。一人みたいだけど……迷子?」
「保護者は見当たらないみたいですけど……あ、私が見てきますよ」
言い終わると同時に、手に持っていた書類の束を固めて恭弥さんの机の上に置いてから足早に応接室を出て行った。
たぶん、校舎の中にもう入ってるはずと思い、階段を下りて一階から探してみる。まだ掃除の最中のために、人がかなり居て、見つけるのが大変そうだなぁって思いながら階段を二階に上がっていく最中、曲がり角から捜していた女の子がいきなり飛び出してきて思いっきりぶつかった。
「きゃぁ…っ……ご、ごめん。大丈夫?」
「%~&%$$#=!」
「え……?」
いきなりよくわからない言葉で話してきたので驚いてると、その女の子は頭を下げて屋上へと駆け上がっていった。私も慌てて後を追いかけて屋上に向かった。扉を開けると、小さい女の子とリボーンが居た。
「リ、リボーン!?」
「ちゃおっす。」
「あ、こんにちは。……って、こんなところで何してるの?」
「おもしれー奴が着てるみたいだから見に来たんだぞ」
「おもしろい・・・・?」
リボーンが面白いって言ったらよっぽどのはず…しかもかなり物騒なことじゃ…って、あれ、ちょっとまって、まさか……ふと、小さい女の子の方を見た。なぜか女の子はさっきと服装が微妙に違ってて、いつでも戦闘態勢みたいな格好で突っ立ってた。
「もしかして……この子のこと?」
「ああ、そーだ」
「普通の子だよね……あれ、でも服装が……普通じゃない気がするけど……コスプレとかいうやつかな?」
少し視線をリボーンに移して聞いてみると、いつもと同じくニヤリと笑うだけで何も教えてくれなかった。後ろの方から扉を開ける音がしたから振り返ってみると、沢田くんがちょうど入ってくるところだった。声をかけようと思ったときに、小さな女の子がかなり高いジャンプをして沢田くんの方に飛んでいった。
「おい、リボーン。急になん……って、うわぁあ!」
「&%~$*$¥#@!!」
「昨日は暗殺すべきターゲットとは知らずに助けたが、今日はお前を殺す……って言ってるぞ」
「なに、わけのわかんないこといってんだよ」
「そいつが殺し屋のイーピンだぞ」
「ちょ、こんなに小さい子が殺し屋?」
驚いて声を上げてる沢田君を他所に、私も同じくらい大きな声が出てしまった。でも、よく考えたら私も似たようなことをしてたような……まあ、それは生活の為だったし……。それに、よく見てみるとランボ君と年が大して変わってないように見える…。
「え、あ、月読さん!なんでさんまでいんの?」
「……私、最初から居たけど……ま、いいわ。そこの女の子が迷い込んでたから来たんだけど……」
ふと、女の子の方を見てみると沢田君の方に向かって構えてた。そういえば、服が変わってたけどあの服ってもしかして、戦闘用の服……?
「殺し屋って……てっきり、ただのコスプレしてる女の子だと思ってたのに……」
「あれ、イーピンって……じゃあ、こいつが人間爆弾?!」
「そーだぞ。今頃気づいたか、ダメツナ」
「ちょっと待って。なんでその人間爆弾が沢田くんを狙ってるの?……もしかして、ボンゴレの時期十代目だから……とか?」
「もしかしたら……そうかもな。俺もよく知らねーけど、これも修行の一環だ。行け、ダメツナ」
言うと同時に、リボーンが沢田くんの背中を蹴った。そのままふらつきながら転がるようにイーピンちゃんの前に進んだ。それを見ていたイーピンちゃんは思いっきり戦闘の構えになる。
「また超能力だ!触れずに倒す超能力だ~っ!!」
「超能力?」
「うん!今朝見たんだけど、手を触れずに直接相手を倒すんだ」
「超能力なんかじゃねーぞ。その技には秘密があるんだ」
「!秘密だって!?」
超能力って……あの格好で超能力?いかにも舞踏家ですって感じの服を着てるのにって思いながら見てると、イーピンちゃんから何か飛ばされた。微かに空気が揺らいで、空気の塊みたいな透明な何かが沢田くんに向かって飛んでいくのがわかった。沢田くんは、それにもろにぶつかったらしくそのまま飛ばされた。
「ちょ、大丈夫!?」
「大丈夫だ。あれぐらいなら平気だぞ」
「そ、そっか……でも、あれって……今、何か飛ばしたよね?」
「あれが見えたのか?」
「うん。見えたっていうか……一瞬、空気が揺らいだから解ったの」
「そーか。やっぱり月姫の異名はだてじゃないな」
沢田くんはまるでイーピンちゃんの手の平で踊らされるように、一方的に攻撃を受けてて仕舞いには口から泡を吹き始めてる。あれだけ弱いとかなり心配になってきて、さすがに参戦しようかなって思ってきた。でも、修行の一環って言ってるリボーンが絶対に横槍入れてくるんだろうなぁって思ったから、せめて一言だけ言って入ろうって決めた。
「リボーン。いくらなんでもあれは不味くない?!」
「しょーがねーな」
リボーンにしては珍しく手を貸すつもりらしく、銃を取り出しすとイーピンちゃんが繰り出している空気の玉みたいなものに向けて撃った。その瞬間、沢田くんの周りで空気が爆発するみたいに何かが弾けた。
「うわっ!くさっ!!なにこれ……ニンニクの匂い??!」
「弾丸で奴が撃った気体の塊を砕いたんだ。これが奴の技の正体だぞ」
「さっきのってニンニクの匂いの塊だったんだ……ある意味、すごいかも……」
思わず感心していると、リボーンが説明してくれた。その詳しい説明だと……餃子拳という拳法で、餃子饅を食べて、その食べた後のくさい息を拳法で圧縮して、相手の鼻に送り込んで脳を麻痺させる。脳が麻痺して筋肉が勝手に動く姿がまるで超能力に操られてるようにみえるらしい。
「えっと……それって、アロマテラピーの逆応用バージョンみたいなものかな……?」
「それって……つまり、くっさい拳法?!」
「言っちゃった?!せめて、オブラートに包んであげようよ……ね?」
「さん……だってさ……あんな凄い技の正体がニンニクだよ」
気持ちはなんとなくわかるんだけど……だってさっき、凄い攻撃受けまくってて手も足も出てたなかったし……。でも、この子は女の子なんだからって言おうとした時に沢田くんが凄く青ざめた顔で「かっこ……わる……」と呟いてた。それを聞き取ったらしいイーピンちゃんは凄い冷や汗らしきものを水のように流していて、おでこに何か変なマークみたいなものが浮かび上がってきた。それを見たリボーンは「”筒子時限超爆”のカウントダウンがはじまっちまったな」と言い放った。